ど-318. よくないこと
稀にある事、ではなくて。
良くない=悪いこと?
「思い出した!」
「そうですか、ついに旦那様もご自身の事をお認めになられましたか。それはめでたい事に御座います」
「俺は思い出した、って言ったつもりだが?」
「残念ながら私もその様に聞き取りしましたが、何か?」
「ならどこをどうやったら俺が『認める』だの『認めない』だの言う話になるんだよ?」
「私は認めないなどという言葉は一言も発しておりません」
「んな細かい所はどうでもいいんだよ。それより……不穏極まりなく聞こえるけど俺が何を認めたって? そして何がめでたいと?」
「……ちっ」
「おぉぉい、いまの舌打ちは何!? いつもしないから演技感が有り有りではあるんだが、それでも今このタイミングでされるとそこはかとなく気になる――以上にムカつくんだが、おい?」
「旦那様、如何なされましたか?」
「その満面の笑みは今すぐ止めろ。寒気がする」
「了承いたしました、旦那様」
「で、いつも通りの無表情に落ち着くわけね」
「表情の一つを変えるだけでも一苦労ですので」
「今まで俺じゃなきゃ演技って見抜けないほどの精度で不機嫌さとか笑顔を演出してたやつの科白とは思えないんですが?」
「ですが事実でございますので」
「……まあ、それもそうか」
「はい」
「時々その事実が信じられなくはなるけどな」
「旦那様に信じられずして、果して誰に信じてもらおうと言うのでしょう」
「ゃ、お前の事なら大抵の奴はほぼ無条件、盲目的に信じそうな気はするけどな」
「何を仰っても欠片も信じてもらえない旦那様とは真逆ですね?」
「放っておけ」
「はい」
「……いや、そこで素直に頷かれても、なぁ。何か微妙な心境だぞ」
「放置ぷれいをお楽しみではないのですか?」
「プレイとか言うな。あと、全く楽しくもねぇ」
「そうなのですか。……ところで放置プレイとは何の事ですか?」
「お前が言い出した事だろうが。んなこと、俺に振るな」
「そうですか。それは残念」
「それで、危うく有耶無耶にされそうだったが――俺が一体何を認めたって言うんだ、お前は」
「まだ覚えておられたのですか、旦那様」
「忘れるかっ」
「過去に囚われてばかりでは大きな男になれませんよ?」
「うわっ、今何か信じられない科白を聞いたぞ、俺」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「大きな男とか、お前言ってて恥ずかしくね?」
「いえ、恥ずかしくは御座いませんが」
「そうか。でも、まっ、俺は別に大きな男とかになりたくもないしな。何事も平凡が一番だよ」
「もっとも、旦那様ほど平凡という言葉が似合わないお方はおりませんが?」
「そんな事はない。俺は至って平凡な普通人だ」
「妄信もここまで来ると素敵です。流石は旦那様」
「……それで? 煙に巻こうとしてるかもしれないんだが、俺が何を認めたと?」
「しつこいですね、旦那様」
「おまえの舌打ちが非常にムカついてな。気になって仕方ないんだよ」
「そうですか。ですが旦那様、しつこい旦那様は好かれますよ?」
「好かれるのかよ」
「嫌われた方が宜しかったので?」
「いや、嫌われるよりは好かれる方が良いけどな」
「そうですか。では取り立てて隠すようなことでもないので申し上げさせて頂きますが、」
「あぁ」
「態々『思い出した』などと仰られている時点で既にその事象は頻繁にある事ではなく、またこのような僻地で『思い出さねば』ならなかったという事実からもそれが他者ではなく旦那様自身にしか起こりえていない希少な事象であるということを物語っている……と言う証拠そのモノでは御座いませんか」
「俺は思い出したって言っただけのはずなんだが、どうしてそこまで俺が言おうとしてた事が言い当てられてるんだ?」
「旦那様の事ですので」
「……何か俺の全てをお前に見透かされてそうで怖いぞ」
「これも愛の力でしょう」
「嫌な愛の力だな、おい」
「ぽっ」
「口に出すと、例え本当に照れてても真実味がぐっと落ちるのな」
「そうで御座いますね」
「……で、だ。話を戻すが」
「はい、何で御座いましょうか、旦那様」
「ほら、な。あまりにありふれ過ぎてて思い出せなかったとか、そういうこともあるだろ?」
「……ふぅ」
「な、何だよそのため息は?」
「旦那様も、悪足掻きをなさる。……――いえ、それでこその旦那様、と言うべきでしょうか」
ちっ、魔の悪い。
……と、か何とか言ってますが、後書きは基本思いつきのみで書いていますので信憑性はほとんど御座いません。
身に覚えのない話
「そろそろ俺も把握してきた。たぶんどこかの誰かが俺に悪意を持って悪戯をしてるんだ、絶対!」
「其処で何故私を見られるので? それと旦那様、誰かと仰るのであれば、それはほかでもない旦那様ご自身では御座いませんか?」
「それはない! ……と、思う」