ど-317. よくあること
そーですね(笑)
「割とある事だと思うんだ」
「何がでしょうか? それと旦那様基準で良くある事と言われましても、私はどのように反応すればよいのでしょうか?」
「普通に反応しろ、普通に」
「ではつまり今旦那様が仰った事は、詳しくも何も私は存じ上げない事なのですが、常人にとってはまず起こりえないことなのですね」
「何だよ、そのまるで俺が普通のヒトじゃないみたいな言い方はっ」
「まさか、旦那様は御自分が常人だとでも妄信しておいでで?」
「当たり前だろ? と、いうよりも俺はどこからどう見たって普通の、極々一般なヒトだろうが。何を、どこをどう疑う必要がある」
「……――ぃ」
「い?」
「医者をっ、直ちにお医者様をお呼びしなくてはっ!!」
「おいっ、それはどういう意味だ!? 後ちょっと慌て過ぎなんじゃないですか、おい」
「……旦那様、落ち着いてお聞きくださいませ」
「俺は始めから落ち着いている」
「いいえ。いいえっ、旦那様。失礼ながら申し上げますが、私如きの素人判断では旦那様が遂にご乱心なされたとしか思えません!!」
「本当に失礼だよ、お前」
「非礼を承知で申し上げます。旦那様、頭は大丈夫ですか?」
「……非礼とか何とかほざいてる割には実にストレートに聞いてきやがったな」
「それも私の美点にございますので」
「美点、ねぇ……?」
「何かご不満でも?」
「い〜やっ」
「そうですか。それで旦那様、頭のほうはご無事……と、本人になど聞くだけ無駄でしたか。どうせお優しい、大変お優しい旦那様の事ですので私を気遣って『なんともない』などと仰る事は分かりきっております」
「つーか、なら俺はどう言えば俺の正気が証明されるんだよ?」
「正気? 旦那様には縁の切れた単語ですね?」
「切れてないよっ! 断じて、切れてないからなっ!?」
「……お労しや」
「労しくないっ。むしろ今のどこに俺を労しむ流れがあったっ!?」
「旦那様の存在自体がはじめからお労しい限りではございませんか。何を今更仰られるのですか?」
「実に不思議そうに首を傾げるな、このっ」
「申し訳ございません旦那様。私、ただいま旦那様が在り得ない発言をなされた為に少々取り乱しておりますので失礼な発言をしてしまうかもしれません。その時は旦那様の塵芥よりも広大なお心でお許しくださいませ」
「その発言が既に失礼だってこと、気づいてる? 気づいてます、って気づいて――いて、なお今の発言してるんだよな、お前のことだから絶対」
「それで旦那様、常人には稀で、旦那様にとっては非常に良くある事と言うのは一体何なのでしょうか? 私にも義理人情というものはございますので、あくまで一応ながら訊ねておきたいと思います」
「そこまで貶されるように言われて、はいそうかって俺が話すと思うか?」
「貶す? 今までの話の流れでどこか旦那様が貶されるような箇所がございましたか?」
「……心底本気で言ってるのか、すっ呆けてるだけなのか、微妙なところだな」
「私は女性が関わらない限りは常時ヤル気無しの旦那様とは異なり、常に本気でございますが?」
「……まあいい。お前の戯言に付き合うほど時間の無駄な遣い方はないからな」
「なんと冷たいお言葉でしょう」
「で、だ。良くあることって言うのはだな、」
「確かに死に掛けるなど旦那様には大変良くあることにございますね?」
「まだ何も言ってねぇよ!? ……あと、本当に死に掛けるのが日常茶飯事だから追い討ちかけるのは止めろ、つーかそもそも誰の所為で死に掛けると思ってるんだよ、おい!?」
「旦那様ご自身の所為以外の理由があるのですか?」
「あるよっ、てか当然、ほぼすべてお前の所為だよっ!?」
「そのような事もあったかもしれませんね?」
「んな風に流して済むと思ってる? 思ってるのか??」
「それで旦那様、結局のところそのよくある事柄と吹いたのは一体どのようなことなのですか?」
「……む?」
「旦那様?」
「忘れた。……まあ、本当によくあるような些細な事だったはずだから思い出すだろ、そのうち」
「そうだとよろしいですね?」
ふぁむす!
身に覚えのない話
「――何か寒気がした」
「風邪ですね、旦那様」




