ど-315. 雲が蜘蛛の形だった
八本なしの、ナイスガイ
「……なぁ?」
「旦那様? 申し訳ございませんがもう少々お待ちいただけますでしょうか。ただいま手が離せませんので」
「いや、その手が離せない用事も含めて聞きたい事があるのだが?」
「では少々急ぎで終わらせると致しましょう」
「問題はそういう事じゃなくてだな」
「終わりました」
「早っ!?」
「旦那様の御用とあらば疎かにする訳には参りませんので」
「うん、それは良い心がけだな」
「それで旦那様、どのような無意味無価値無駄極まりない御用なのでしょうか?」
「その言い方だけで十分おろそかだよっ!?」
「細々とした物言いをなさらずに、早急に旦那様のご要とやらを申し上げて頂いた方が旦那様にも私にも、双方にとり都合がよろしいかと存じますが?」
「それ、馬鹿丁寧な言葉使ってるけど要は『つべこべ言わずさっさと要件を言え』って言ってるんだよな?」
「非礼を承知で短く申し上げるならば、そうとも言えますね」
「何が非礼かっ。俺にはそうとしか聞こえなかったよっ!」
「それは旦那様、良い医者を紹介いたしましょうか? それとも私が診た方が宜しいでしょうか?」
「俺はどこも悪くない」
「ですが旦那様、耳が……」
「俺の耳は正常だ。むしろお前の思考を疑いたい」
「!!!!!!」
「……今、何か驚くところあったか?」
「旦那様に、まさか旦那様如きに私が頭を疑われるとは何と言う……」
「何と言う……、何だよ?」
「明日は晴れると良いですね、旦那様?」
「いやっ!? だからさっきの続きは!?」
「取り敢えず私は先の言葉は聞かなかった事にしようと思いますので、旦那様も言わなかった事にして下さいませ」
「いや、だから俺がお前の頭がおかしいとか言うと……、の続きの言葉は一体何だよ?」
「旦那様の……えっち」
「なんでそうなるのっ!?」
「いえ、何となく申してみました。意味は旦那様のご用事と同様、全く意味を持ちません」
「――っと。そう言えば忘れてた。いい加減不毛な言い争いは止そう」
「不毛な言い争いをしていたのは旦那様お一人、つまり旦那様の愉快な独り舞台だっただけですが?」
「……突っ込まない、突っ込まないからな」
「そうですか。その方が話が先に進むので助かります。それで旦那様、ご用件を、一応聞いてだけはおこうと思います。如何用で御座いましょうか、旦那様?」
「……それで、ソレは一体何なんだよ?」
「それとはどれを指しているのでしょう?」
「お前がたった今作り終えたソレの事だ」
「やはりこちらの事でしたか。ですが旦那様、視て分かりませんか?」
「分かるような、分からないような、分かりたくないような……だから一応お前に聞いてる。それは何だ?」
「旦那様捕食用の罠ですが、それが何か?」
「捕食!? 捕食って言った、今!?」
「はい。例えば……そうですね、ここに旦那様を模した人形が御座います」
「……何処から出した、とか何時んなものを作ってやがった、とかは取り敢えず聞かないでやろう」
「ありがとうございます。ではこの人形を、こちらの糸に引っ掛けます。するとあら不思議、粘着性の糸に絡まり旦那様は身動きがとれません」
「……おい、何か来たぞ? 八本足の気味悪いモン」
「疑似生命……簡易人形ですね。通称“ククモ”と名づけております。もっとも簡易なので単純な命令しか与えられないのですが」
「……たとえばどんな命令だ?」
「そうですね、今などは――ほら、この様に」
「……俺には俺の人形をバリバリと喰ってるような気がするのだが?」
「はい。この糸にかかった旦那様を食べる、というのが命令ですね?」
「……ちなみにそれ以外は?」
「それ以外とは?」
「つまり、この罠とこの簡易人形は俺を文字通り捕食する以外の意味はないということでいいのか?」
「流石、旦那様」
「……」
「旦那様、如何なされましたか?」
「如何なされた、じゃねー!!!!」
「旦那様、そのように派手に動かれますと――」
「ぁ」
「ククモがわんさか寄ってきますね、旦那様っ」
「うおおおぉぉぉ!?!? いや、ちょっと待て、本気で取れないぞ、これ!?」
「旦那様のご健闘、心よりお祈りしております」
「いやっ、ちょい待――」
綿菓子はおいしい……
何か500話目らしいのですが、日々変わりなく。淡々、ルンルンと進んでいきます。
身に覚えのない話
「架空請求とか、怖い世の中だなぁ」
「旦那様、それは間違いなく旦那様の実費ですのでお忘れなく」




