1. どれいと人買い
時折ですが変な毒電波が入ります。
「あるところにそれはそれはみすぼらしい、糞生意気で傲慢稚気、唯我独尊天上天下、無一文、無能で愚図な男がいました」
「げひっ、げひっ、げひっ………突っ込んでいいですか?」
「訂正します。ある所にお金持ちの、それはそれは脂ぎった息が臭く、ぽっちゃり系?などと間違っても言えないほどに腹は出ている、幼女も幼男も大好きな変態の成金野郎――自分で言って置いてなんですがまるで世界の害虫のような存在ですね――がいました」
「ひひっ、やはりこの場所はいい。具民(←誤字ではない)どもが這いつくばっているのを見る程楽しい事などこの世にありはせんわ」
「旦那、旦那」
「んんっ、何だ?俺様は今機嫌が頗るいいんだ。お前のような具民の話も聞いてやらんでもないぞ。物申せ」
「へい。お見受けしたところご立派なお姿。懐の方もさぞかし……如何でしょう、いいブツがありますぜ、旦那?」
「……げひっ、ほほっ、いいぞ。見せてみろ」
「へい、こちらへ」
「ふひっ、ふひっ、ふひひっ」
「……こちらの奴隷どもでございます。どうでしょう?」
「ほほっ、これは」
「それもなんとその成金野郎の趣味は奴隷を買う事、という超ドサドという害悪っぷり。ああ、なんという事でしょうか……つくづく虫唾の奔る存在ですね、全く」
「だ、旦那、今何か声が聞こえたよう…」
「幻聴だ。気にするな」
「へ、へぇ?しかし…」
「命が惜しければ気にするな」
「へ……へへぇ!!失礼しやした!!!」
「ぐふっ、分かればいいのよ、わかれば。それで、この二匹がいいブツとやらか?」
「へぇ、どうでやんしょう?顔も上等でしょう……へへっ、しかも初物ですぜ?私どもなんぞ涙を呑んで…」
「御託はいい」
「へ、へぇ、失礼しやした!!」
「だが、ぐふっ、そうか、初物か、ぐふふっ…。で、値はいくらだ?」
「……これ位でいかがでしょう?」
「ちょっと、高いんじゃないのか?」
「いいえ、実はこの奴隷には“烙印”以外にも“リミッタ”がありやして、腕の方も中々で…」
「ほほぅ……だが金十五は高くないか?」
「旦那ぁ、こっちとら商売でしてね、金がないんなら別に買っていただかなくても結構ですぜ?何せ此処まで高物件ですと他にも買い手の当てくらいは…」
「わかったっ、分かった。し、仕方ない。こいつ等二人を買って…ん?」
「旦那、どうしやした?」
「おい、あれは――?」
「あれ、ですか……ああ、あのガキですかい。あれは駄目です。どれだけ痛めつけても一向に何もしようともしねえ。しかも悲鳴を聞こうにも声が出せないとくる。そもそも贅沢にもくれてやった食べ物すら受け付けやしねえ。外見はまあまあなんで一応置いてあるんですがそろそろガキの体力も尽きて来る頃でしょ、捨てる潮時ですかね」
「そうか」
「旦那、もしかしてあれが気になりましたか?見ての通りがりがりで弱ってもいやすし、今ならお安くしときますぜ?」
「……そう、だな。ああ言った愚物をいたぶるのも、中々、楽しそうだ」
「へへっ、旦那、そう言う趣味ならこちらの方も…」
「いや…もっ、もういいっ!!」
「へ?そうですか。それなら…」
「こっ、これだけだ」
「……はい?」
「だ、だからこれだけで買えるだけのものを買うと言っているんだ、聞こえなかったのか、この具民がっ!!」
「へ、へぇ。……こ、これは」
「金五百ある。全ての奴隷を貰い受けても構わないな?」
「そ、それは勿論で。では早速権利譲渡を…」
「ぐふっ、ああ、早くしてもらおうか」
「で、では……烙印、起動、保有権をこちらの旦那に」
――刻印権利、譲渡……完了です
「へへっ、で、ではそう言うわけであっしはこれで……へへっ、この家のものはもう全部旦那のものですぜっ!!」
「そう言って逃げるように駆け出して行く奴隷商人でした。ああ、しかし哀れ。実はこの家の中には奴隷は十二人しかいないのです。百もあれば全部を買えたものを…やはり愚かですね」
「うるさい、それともういい。黙れ」
「――失礼しました。では、丘の上でお待ちしております」
「さて、と。ぐふふっ、貴様達はもう俺様の物だ。この“隷属の刻印”がある限り文字通り貴様達の命も、な………おい、返事は如何した?」
『は、はい』
「まあ、いい。ほほっ、屋敷に帰ってから存分に可愛がってやるとしよう」
『………』
「では、早速いくか。おい、お前達、いつまで外にいる。出てきてこいつ等を全員運べ!!」
「………」
「どこからともなく現れた兵士達が“隷属の刻印”を刻まれたの少女達を連れて行きます。可哀想に、どの少女もこの豚にも劣る男の物となってしまった事実に皆悲壮で…」
「いい加減黙れと言っている。それと下手な事を喋るな。見えない相手を当たり前のように見える、声が聞こえるってのは変なんだ。覚えておけ。……あ、あと覗き見もするなよ」
「………失礼しました」
「ふうっ……さて、と。おい、お前」
「………」
「本当に今にも死にそうな目をしている。ぐふっ、だが素直に死なせはせんよ。ぐふふっ」
「………」
「ぐふっ、そう怯える事はない。お前のような小娘、嫌いではないぞ」
「………」
「逆らおうとしても無駄だ。分かっているだろう、烙印はそう言うもの…になっている」
「………」
「つまらん。本当になんの反応もないのか。ふぅ、ん……………小娘、行くぞ」
「………」
「で、一歩出たとたんにこれか。ったくよぉ。はぁ……ふん、具民どもが」
「さあ、有り金全部置いていってもらおうか」
「……」
「はははっ、こいつ震えやがって、声もだせないでやんの」
「所詮はおぼっちゃまって事だよ。まあ、今から死ぬけどな」
「こんな所に一人で来たのがそもそもの間違いってか」
「き、き、き…」
「何、俺たちも流石に命まではとらねえよ。羽振りの随分よろしいお坊ちゃまの有金を全ていただいて当の本人には烙印を刻んで奴隷にしてやるだけの事さ」
「き、きさまら、俺様が誰だかわかって言っているのか?」
「さあ?でも随分羽振りはよかったそうだな。たった十二の奴隷に金五百も出した馬鹿がいるって話題で持ちきりだぜ。誰がそいつから残りの金を毟り獲るかってな」
「ぐ、ぐ…具民どもに無償で分け与える金など俺様は持ってないぞ。さっさと去れ!!」
「そうはいかねえ。さっきも言っただろう。有り金いただいた後はてめえを奴隷にしてやるってな」
「く、くそっ」
「おっと、逃げようたってそうはいかねえ」
「囲まれてるのが分かってないようだな」
「そうだ。軽く見積もってもここには十数人はくだらねえからな。逃げられると思うなよ」
「それよりも、分かってるんだろうな。金はこの馬鹿を片してから奪い合うんだ」
「ああ、分かってるとも」
「きききさまら俺様を無視するなぁ!!」
「うるせえ」
「豚は黙って人間様の餌になってればいいんだよ」
ザシュ
「ぐはぁ!?」
「さて、邪魔者もいなくなった事だし分け前の話にでも移るとするか」
「それもそうだな」
「ぅ、うぅ……それは俺のも、の……」
「ちっ、まだ生きてやがったのか、もういいよ、さっさと死ねよ」
「ああ、じゃあゴクロウサマ、おぼっちゃま」
「じゃあなぁ〜」
「――それは不可能です」
「は?」
「なっ!?」
『っ!!!』
ザシュシュ!!!
『………』
「マスター、少し演出が過ぎるかと思います」
「…もう少し盛り上げようって気はないのか?それと、なーんかお前達もあいつに似てきたよな」
『それは大変光栄な事です』
「……何で俺よりもあいつの方が皆から好かれるかな?はぁ、まあ今更だしいいけどさ」
「マスター、それはそうとその見るに耐えない醜顔をどうにかしていただけると私共としてはありがたいのですが…?」
「あ、ああ。そう言えば忘れてたな……と」
バリッ
「ふぅ、結構蒸したよな。変装って言うのも結構大変なものだ」
「ならしなければいいのに…元は良いんだから」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。それよりも丘の方でミッシャ様が待っておいでですのでお急ぎください」
「ああ、分かった。それと護衛長…えっと、サラカ」
「はい?」
「そのミッシャって名前、偽名だぞ。またあいつに騙されたのか?」
『………』
「あー、この服ももう駄目だな。とは言ってもどうせ今の体型に合わせたものだからいいか。被服部のやつらには可哀想な事しちまったかもなぁ」
「その服は…カラオーヌが三日三晩掛けて縫い上げたものですね」
「あーそれだけじゃないな。斬られても無事だったし、そもそも衝撃すら伝わってこなかったな。あいつその上から鉄網を編込みやがったな。余計な事を…」
「マスター、愚痴は本人にしてください。私たちの姿を暗ましている魔法も結構疲れますので」
「ああ、悪かったな。それで、他の奴隷たちはみんな運搬済みなんだな?」
「はい、既に」
「それじゃ、移動するかぁ」
『はい』
一口メモ〜
基本的には登場人物の名前はほとんど気にしなくて結構です、一対一の対話が基本なので。
サカラ
館内の職業(?)の一つの護衛部の長の女の子。
当然、奴隷の内の一人。
カラオーヌ
被服部に所属している女の子。
服作るの大好きな人。人形も良く作る。一度作り始めるとずっと作ってる人。
二人の会話じゃないシリーズ。
毒電波入りで、時折紛れ込むことがあります。ご注意ください。