ど-312. ちゃんと喧嘩中
ふと起きた。
「……む?」
「……」
「お? もうこんな時間なのか。珍しいな、今日は起こされなかったのか……って、でも居るしっ!?」
「……」
「居るならいるで声掛けろよなー。ったく、びっくりするじゃねえか」
「……」
「おい、服」
「……」
「おい、飯は?」
「……」
「おい、お前。さっきから無視して何のつもりだ?」
「……」
「――ふ〜ん。そうかそうか、あくまで無視を貫くつもりか」
「……」
「良いだろう、それならそれでこっちにも考えがあるっ」
「……」
「このままその反抗的な態度を続けるというのならお前の秘密を――ばらすっ!」
「……赤いラクレシィの花」
「……と、言うのはやっぱり良くないよなー。うん、ヒトの秘密をむやみやたらにばらまくのは良くない、人道にも反するしなっ」
「……」
「でも、いやしかし……お前がその気だって言うんなら俺の方にも相応の考えがある」
「赤い――」
「いやっ、別にお前の秘密をばらすとかそういう事じゃないからっ。アレの事を話題に出すのは止めてっ、止めてくださいお願いだからっ!!」
「……」
「くっ、圧倒的に俺が不利な気もするが。だが負けんっ、俺は負けんぞー!!!!」
「……」
「ふっ、これだけは使うまいと思っていたんだがな。仕方ない、今までは封じ手として使う事を止めてたんだが……遂に使う時が来たようだ」
「……」
「では――覚悟しなっ!」
「……ふっ」
「笑った!? 今、俺を見て笑いやがったこいつっ!?」
「……」
「ちっ、次は無視か。このヤロウ、俺を弄んで楽しいのか?」
「……」
「……うん、少しだけ良かった。ここで『愉しいですよ?』とか当然のように言われたりすると、流石に嫌だった」
「……」
「よしっ、徹底して無視を貫く姿勢何だな。そうかそうか。これで安心して俺もあの手を使えるというものだ」
「……」
「さーてと、それじゃあ着替えるとするかー。……ちら?」
「……」
「ふっ、見よこの肉体美。余計な肉一つない、誰もがほれ込むこの身体っ」
「……」
「むー、反応なしかー。ちょっとくらいは『きゃっ、いっ、いきなり目の前で着替え出さないで下さい旦那様のえっち!!』とかなんとか言ってみろよー」
「……」
「まあいい。それにいい機会だ。お前の手伝いなんてなくても俺は普通に生活できてるって事を証明してやる」
「……」
「さて、と。久しぶりに自分の食事を作るけど、何にするかねー?」
「……」
「お前、何かリクエストでもあるか? 俺は優しく寛大な男だからな、何か食べたいものでもあれば作ってやらなくもないぞ?」
「……」
「なしか。それじゃ……んー、まああるものを適当に見つくろえばいいか」
「……」
「さて、と。それじゃ俺は朝の準備がてら朝食を作りに行くが……ここまで徹底して無視するんだ。覚悟はちゃんとできてるんだよな?」
「……」
「俺の方だってな、お前を無視したって全然、全然寂しくも何ともないんだからなっ」
「……」
「いいさ、いいさっ。俺だってお前の事なんて知るかよーだっ!!!!」
「…………行って、しまわれました。喧嘩というモノは――旦那様に気軽に話しかける事が出来ないというのは思っていたよりもずっと……寂しいのですね」
喧嘩というのは難しいです。
完全に無視すると言う訳でもなく、完全に衝突すると言う訳でもなく……程良い距離感が、
身に覚えのない話
「……なんだ、この紙? 無駄なほどに保護とか強化とカの魔術が掛けられてるんだが……」
「私のファンクラブメンバーズカードですね。それもNo.000000、プレミアものですね、旦那様」
「いや、俺はそんなモノは言った覚えは……それにゼロが6つって、どれだけ人数いるんだよ、そのファンクラブとやらに」




