ど-311. しりとり
らいおん
「もう、疲れました」
「確かに、俺も疲れたよ」
「宜しいでしょう、では次で決めさせて頂きます」
「澄ましやがって、それはこっちの科白だぜっ」
「絶対に負けません、が所で旦那様、私たちは一体何をしているのでしょうか?」
「か? って、んなモノ勝負に決まってるだろうが、お前と俺がする事に勝負以外の何があるって言うんだ」
「大体、なぜ私たちは勝負などしているのですか?」
「簡単なようでいて、難しい質問だな、それは」
「はい、そうなのですか、旦那様?」
「まあ、何と言っても俺たち喧嘩中だしな……ってこんな和やかな雰囲気で喧嘩も何もあるかっ!」
「かような事を私に言われましても、たとえ喧嘩中であったとしても、仲違いの最中どれほど私が頭に来ていてつい手を上げたくなる衝動を抑えていたとしても、私が旦那様に対します態度を変えるはずがないでは御座いませんか」
「簡単に言ってくれる、つーか確かにてめえの態度はいつも同じようなモノだよな? 俺の扱いが酷いという意味でっ!」
「ですが旦那様は照れ屋ですから、多少信愛愛情の表現が過激になってしまうのは致し方御ないというものです」
「少しくらい、俺としてはその表現の方法とやらを加減して欲しいところですけど、ねぇ?」
「英雄的な扱いと、ゴミ屑的な扱いと、旦那様的な扱いが御座いますがどれにいたしましょう?」
「うーん、悩むな――ってんなわけあるかっ、英雄的な扱い以外に碌な選択肢が用意してないのは俺の気のせいか? 気の所為なのかっ!?」
「懐疑的になり過ぎでは御座いませんか、旦那様? 旦那様的な扱いが“碌”である選択肢とはお思いになられないので?」
「ではでは聞いてやるが、その旦那様的な扱いとやらは今俺が受けている仕打ちの数々とどこがどう違うんだ、おい?」
「些かの違いも御座いません……が旦那様、何か不満があるのですか、でしたら私としましても、旦那様の不満を解消するように動かざるを得ないのですが」
「ガタガタ抜かす暇があったらまずは馬乗りになるな、マウントポジションを取るな、力掛けるな、俺の上から退け」
「決して他意があったわけでは御座いません、一番効果的な方法を、私は選んでいるにすぎないのですから」
「楽で効果的な、ね。お前、色仕掛けとかでもしてたつもりか? 全然なってなかったけど、むしろお前にマウントポジションを取られると萎えますけど?」
「どうして旦那様はそうなのでしょうか? ……まだ露出部が足りませんか」
「仮にお前が全裸だったとしても、いや全裸だった方が一体何考えてやがるって感じで怖いだけだ、だから間違ってもこれ以上服を脱ぐとかそういうことはするなよ?」
「よれよれの、着崩せるところまで着崩してみたのですが、この姿は旦那様はお気に召しませんでしたか?」
「かなりいい感じだ。着崩れしたメイド服、それも中身が極上の美女――に一応は分類されるんだ……ああ、目が覚めるなりに見る光景としては最高の部類に入るんじゃないのか?」
「可愛いなどと、余り褒めないで下さいませ旦那様」
「全く、ひとつも、可愛いなんて俺は言ってない」
「いいえ旦那様、旦那様は心の中で私の姿に身悶えして居たでは御座いませんか?」
「勝手に俺が実は身悶えしてたとかって捏造するなっ……まあ少しくらいは目を奪われなくもなかったけど」
「どうしてどうして、ですが旦那様、既に目の程は十二分に冷めておられるのでは御座いませんか? ならば私の勝ちですね」
「眠たくは……もうないが、でも今思えばこれってずるくないか、そりゃ話をしてりゃ眠気なんて吹き飛ぶってモノだろう?」
「海より浅く、空より低い旦那様の思慮に感謝いたします、では、私は朝食を用意し手鞠ますのでこれで」
「で、って、あぁ…………んで、『起きたら負けだ』とか不意に思ってたんだが、何が負けなんだろうなぁ?」
……寝過ごしました
身に覚えのない話
「なあ、そう言えば礼服とか、しっかりした服が増えてないか? 俺、こういう服は堅苦しくて好きじゃなかったはずなんだが……」
「次の婚約披露兼お見合い兼パーティにはどの服を着ていくのですか、旦那様?」




