ど-310. けんか、継続中
いま、レム君とメイドさんはケンカの最中です。
「あ」
「な、何だ!?」
「いえ、別に」
「いや、今のは間違いなく『いえ、別に』とかで済ませられるものじゃなかっただろうっ!?」
「その様な事は御座いませんよ?」
「いや、間違いなくそうだった。お前があんな呆然とした声を出したのなんて俺はほとんど聞いた事ないぞ!」
「演技かもしれませんし?」
「それを自分で言うなっ、じゃなくて俺を嘗めるな。その程度の事はちゃんと想定済みだ。その上で、お前が驚いてたって言ってるんだよ」
「まあ」
「まあ、じゃないってのっ。さあ言え、すぐ言え今すぐ吐け、一体何に驚きやがった、そしてそれは俺に被害が及ぶことなのか、いや絶対に及ぶだろ、おい!?」
「……今の旦那様の発言には些か被害妄想が入っているものと考えられますが?」
「だとしてもだ、仮に俺が巻き込まれないような事態だったとしても……お前、絶対俺の事巻き込むだろ?」
「旦那様の不幸は旦那様のモノ、私の不幸は旦那様のモノ、とも言いますし」
「言わねえよ!?」
「では私の幸は私のモノ、旦那様の幸は私のモノ、の方ですか?」
「そっちも違う、つーか! なんでテメェばっかり良い目を見るような発言内容なんだよ!?」
「しかし一片たりとも疑う必要もない事実ですが?」
「それは……」
「違いますか?」
「確かに、お前が不幸っぽい時は俺も絶対に巻き込まれてるだろうし、」
「旦那様が幸せであれば、それは私の幸せと同義に御座いましょう?」
「……むぅ。確かに、言葉の上でだけ言うなら間違った発言じゃなかったというのは認めてやろう」
「当然です。ですが一応旦那様の立場と愚か極まりない早とちり発言を加味いたしまして礼を申し上げておきましょう。ありがとうございます、旦那様」
「その発言の後に礼は要らねえよ!?」
「それと旦那様、加えて訂正させて頂きますが、私が旦那様を巻き込むのではなく、旦那様が私に巻き込まれるのです。そこのところをお間違えなさらぬよう」
「……どこが違うんだ、それ?」
「私主動ではなく旦那様が主動であると言う事ですが?」
「いや、間違いなくお前の方が主導だろう?」
「確かに、私は扇動する事は御座いますが、非常に疎ましい事に事の中心は間違いなく旦那様に御座いましょう。それもこれも全部あの女の所為なのね、キィィ!」
「……や、急にんな演技されても反応に困るから」
「失礼いたしました」
「んで、だ。お前が俺を巻き込むとか俺がお前に巻き込まれるとかそのあたりの事は突き詰めてったら終わりそうにないから話を戻す事にして、だ」
「はい、旦那様」
「お前、結局何に驚いてたわけ?」
「大した事では御座いませんよ?」
「ああ、別に大した事じゃなくても――むしろ大した事じゃない方がありがたいんだが、俺が聞きたいだけだから」
「そうですか」
「そうだよ。で、お前は何に驚いたわけだ?」
「いえ、この様にお食事を用意し旦那様の身の回りの世話をさせて頂いている際に思い出したのですが、私はただいま旦那様と仲違いの最中なのでした、と気づきまして」
「あー、そう言えばそうだったな」
「真に、日頃の習慣と言うモノは侮れませんね?」
「そうだな、と言うよりもお前は日頃の習慣とか言うほどに俺の世話とかはしてないけどな」
「……――ふふっ、旦那様も御冗談を」
なんで和やかな雰囲気でけんかしてるんだろうな、このヒト達――と、思わなくもない。
まあ所詮は日常にありふれた風景って事で。
身に覚えのない話
「なあ、ついさっき多額の請求書が……って、『みーくんがいっぱいモノを破壊しちゃったのでお金ください』って、一体何の事だ、これ?」
「ハカポゥ様はご健在そうですね」




