ど-306. けんか?
すっぱり、さっぱり、ざっくり、やっぱり
「……ふー、心が休まる」
「それはよう御座いました、旦那様」
「大体さー、お前が余計な事さえしなけりゃ俺の人生順風満帆、こうして平和なひと時が過ごせてるはずってなもんだ」
「おや?」
「……なんだよー?」
「いえ、旦那様も今更何を仰られるのかと、そう思っただけに御座います。全く以て白々しいとはこの事では御座いませんか」
「白々しいって、どういう意味だよ?」
「旦那様はまるでご自身が私に振り回されている、そのような事をお言いなさるのですね」
「……何か間違ってるとでも?」
「それが白々しい、と申し上げているのですが?」
「まるでお前が俺に振り回されてる、って言いたげな流れだな、それは」
「何か間違った点が御座いましたらご指摘をお受けいたしますが?」
「お前、無茶言うヒト。俺、無茶言われて苦労するヒト。違う?」
「はて? 私がいつ旦那様に無茶を言ったか、記憶に御座いませんが?」
「ほー、お前の記憶はそこまで穴だらけなのか、そうなのか」
「何と言われましても私としましては、旦那様に無茶な発言をした事はこれまで一度たりともございません。むしろ、無茶な事を仰られるのは常に旦那様では御座いませんか」
「俺が無茶を? お前に?」
「はい」
「一体いつ?」
「常に、と心しておりますが? 旦那様が仰られる事は常に無茶なコトばかりでは御座いませんか」
「それはそっくりそのまま、お前に返してやろう」
「いえ、その言葉はやはり旦那様にそのままお返しいたしましょう」
「いや、良いって。お前に返すよ、その言葉」
「いえ、やはり旦那様に――」
「だからお前に――」
「「……」」
「譲る気はなさそうですね、旦那様?」
「そう言うお前もな」
「何故、旦那様は無茶を言っているという自覚がまるでないのでしょうね?」
「その言葉もやっぱりお前にそのまま返すよ。お前の言葉がいつも無茶ばっかりだって、本当に自覚がないとでもいうつもりか?」
「私は例え常人には不可能な要求であったとしても、旦那様にとって無理無茶不可能な要求をした事は今まで一度たりともございませんが?」
「俺だってそうだよ。お前なら、お前だから出来ることしか俺は言った覚えはないぞ。それを無茶とか、しかも今まで卒なくやり遂げてきてるくせに今更言うな」
「私は――……私は、旦那様の言いつけとあらば私は不可能な事さえ可能にはして見せましょうとも」
「……あーあ、ったく。せっかくの心休まってた時間が台無しだぜ」
「それは大変申し訳ございませんでした、旦那様」
「思ってもないことをよく言う」
「――」
「なんだ、睨んだって本当の事だろう? 何か言い返せるとでもいうつもりか?」
「――旦那様は、常々思ってはおりましたがやはり少々自分勝手過ぎるのでは御座いませんか?」
「その言葉そっくりそのままお前に返すっ、てかそれだけはお前に言われる筋合いねぇよ!?」
「……」
「……」
「「……ふんっ」」
仲良くしましょう
身に覚えのない話
「気がつくと夢に誰かの名前が出てくるときがある」
「旦那様はご交友が大変広いのですね? ――女性限定で」
「身に覚えはない」




