ど-305. 外食
いらいらですの。
「ちっ、態度の悪い店だな、おい」
「――店に入るなり一瞥して舌打ち、云われのない悪評、ついでに態度が無駄に大きくそもそも存在自体が無駄の塊……と、そう仰られる旦那様御自身が一番態度が悪いと存じますが?」
「俺は良いんだよ、俺は」
「そうなのですか?」
「ああ、なんつーても俺はお客様だからな。いわば神様……は、良い印象がないから止めておくとして、お前の旦那様並に偉いんだよ、俺は」
「と、仰られましても。旦那様は正真正銘、私の唯一無二の旦那様ですが?」
「つまりお客様はそれくらい偉いって事だ」
「……それでは店舗が潰れてしまわないでしょうか?」
「おいっ、お前にとっての旦那様って一体どれだけ酷い扱いされてるんだよ!?」
「私に尋ねられるまでもなく、旦那様ご自身が過去を振り返って見られるのが一番早いのでは御座いませんか?」
「……、例えるモノを間違えてたな」
「そうなのですか?」
「ああ。つまりだなっ、俺はこのお店じゃ客だから、昔……神代の時代で言う使徒様(燎原除く)並に偉くて敬われる存在だって事だよ」
「そうなのですか!?」
「いやお前、それは驚き過ぎ」
「いえ、旦那様の余りの地位の向上ぶりについ驚愕の感情を抑えきれませんでした」
「地位の向上つーか、それは日頃俺の地位がないと言う事なのか? 仮にも俺は奴隷たちのご主人さまで、お前の旦那様だぞ?」
「流石は旦那様」
「…………それはどういう意味での『流石』なんだ? それだけ俺が凄いって意味での『流石』なのか、それともまさか……あれだけの数の奴隷たちの主人でお前の旦那様にも関わらずそれでも地位が、てか日頃の扱いが酷いのが『流石』とかいうコトは、流石のお前でもないよなぁ?」
「流石は旦那様。ちなみに今の流石は余りの名推理を褒め称えた流石ですので、悪しからず」
「要らない説明をどうもありがとうなっ!!」
「いえ、それほどでは御座いません」
「褒めてない。断じて褒めてなんてないんだからなー」
「当然存じておりますとも、旦那様」
「……あいっかわらず、良い性格してるよな、お前って」
「その点では流石の私も旦那様には負けます」
「褒められている気がしない」
「褒めておりますとも。流石は旦那様……旦那様は旦那様と言う一点のみでその『ちょっとだけ偉ぶってみたいお年頃』風の尊大な態度が大変納得してしまうと言うほどに、褒めておりますとも」
「……お前、そんな遠回りないいかたせずに、言いたい事があるならはっきりと言ったらどうだ?」
「私は旦那様はいついかなる時でも旦那様であると、非常に珍しい事に旦那様をお褒め致しただけに御座います。此度に限りましては何一つ隊などは御座いません」
「つまりいつもは他意があるって事を認める発言だな、それは」
「はい。私は他意がないなどと、否定したことが御座いましたか?」
「お前の事だ。多分、他意がある時は“ない”なんて言ってないんだろうさ」
「はい。ご理解いただけているようで、大変嬉しく思います」
「ほっとけ」
「その様につれない言葉を仰らないで下さいませ。……しかし旦那様、荒れてらっしゃいますね?」
「荒れもするわ。ヒトってのはな、食生活が酷いと周りがどんなに健全でも荒れていくものなんだよっ」
「旦那様は荒野に咲く雑草の様です」
「それは耐え忍べと言っているつもりか?」
「いえ。どれだけ頑張ったところで結果は目に見えていると言う事です」
「……はぁぁぁ。まだ数日だって言うのに、もうお前の手料理が恋しいよ、ったく」
「――そのような不意打ちは、少々卑怯というものでは御座いませんか、旦那様?」
食事がないとヒトは荒れるんですってね?
身に覚えのない話
「最近、自棄にヒトに見られてる気がする」
「流石は旦那様、人気者に御座いますね?」
「……お願いだから今のは否定して欲しかったっ!!」




