ど-304. 料理は愛情……よりなにより才能が先
久しぶりの手料理♪
「うぅ、地獄に舞い戻った気分だぜ」
「旦那様?」
「と、言うよりも事実地獄に舞い戻ってるだろ、絶対コレ」
「戯言は宜しいので、早くお食べになっては如何ですか、旦那様?」
「で、でもな? 久しぶりだと覚悟が違うって言うか、こんなもの食ってて無事だったのかすげぇな俺って言うか……何かレベルアップしてません、コレ?」
「はい、ファイ様の料理の腕は相変わらず健在なご様子で」
「くそっ、シャトゥの奴め。せっかく平和になったって言うのに厄介な土産を残していきやがって」
「残したと言うよりも勘違いしているのだと思われます」
「感違いって、何をだ?」
「シャトゥは『今は亡き下僕一号様』と言っていましたので、恐らくは……」
「≪ユグドラシル≫の奴に喰われたのをいい事に喜々として亡きモノにしやがったな、あいつめ」
「嬉々としてはないかと。ファイ様には大変懐いておりましたから」
「懐いて……あぁ、そう言えばそうだよな。ファイの方にもいい影響が出たのか前よりも明るくなってたし……――これだけは改善されなかったみたいだけどな」
「旦那様、久方ぶりのファイ様の手料理に御座いますれば、深くご賞味くださいませ?」
「お前、分かってて言ってるだろ」
「当然では御座いませんか」
「……そこで胸張られてもなぁ、てか、このどろっとしてそうな液体が何の料理なのか俺には判断がつかないのだが?」
「残念ながら私にも判断がつきかねます」
「お前でも分からないのか……」
「ですがファイ様が仰るにはカレーだそうですよ?」
「……カレー? 優雅とは対極にあるぞ、コレ」
「それは華麗の事でしょうか、旦那様。そのような下らない現実逃避はお一人でなさっていればよろしいのですが、早く食べないと料理が冷えてしまいますよ?」
「冷える?」
「はい」
「これが?」
「はい」
「……どうやって?」
「どうやっても何も、温かい料理が時間を置けば冷えてしまうのは当然の事では御座いませんか。何を仰いますか」
「温かいって定義が何処から何処までなのか知らないけどなっ、このぐつぐつ煮えたぎった液体、しばらく前から観察してるけど一向に冷えてくる様子が見られないぞ?」
「まあ素敵。まるで魔法のようですね?」
「万が一、それを本気で言ってるようなら俺はお前の正気を疑う」
「……こほん。そのような事より、早く食されてはいかがですか? 煮えたぎってはおりますが皿が溶け出す様子もなく、普通に食べる事が出来そうではありませんか」
「皿が溶け出すのはもはや料理とは言わん」
「ではこれは間違いなく料理ですね。旦那様、仕方御座いませんので僭越ながら私が旦那様の背中を後押しして差し上げましょう」
「確かに僭越過ぎるな、それは」
「――おっと、手を滑らせました」
「むがっ!?」
「……旦那様、いくら飢えているとはいえ、貪り付くように皿に顔をうずめるのは如何なものかと。少々行儀が悪すぎますよ?」
「おまっ……、だっ……、かっ!?」
「誰の所為だと思っているのか、ですか。当然旦那様ご自身の責任なのでは御座いませんか? 異な事を仰られますね、旦那様は」
「〜〜!!!!」
「それはそうと旦那様、ファイ様の料理の味の程はいかがでしたでしょうか?」
「〜〜! 〜〜!!」
「成程、美味しすぎて声も出ないと、そう仰りたいわけですね、旦那様は」
「!?!?!?」
「流石はファイ様。料理の腕は着実に進歩して……あ」
「……」
「旦那様がたった今崩御なされました。ええ、やはりある意味においてはファイ様の料理の腕は着実に進歩しておられる様子。喜ばしい事です。これでこそ私がファイ様に料理を進めた甲斐があったと言うモノ」
と、言う訳でシャトゥにおいてけぼり(?)にされた下僕一号様。レム君の苦悩がまた一つ復活という訳です。
身に覚えのない話
「なあ、呪念のたっぷり籠った人形が贈られえ来たんだが、お前何か理由知らないか?」
「女性を取られた男性の嫉妬は恐ろしいですね、旦那様?」
「はい? ……ナンノコトデショウ」




