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NEXT TURN -終わり良ければ全て良し-

なむ〜

「――さて、皆様方。本日はお集まりいただき誠にありがとうございます」




澄んだ美声が広間一体に響き渡る。


ただそれだけで音の一切が静まりかえり、見慣れぬ場所に興奮していた“彼女ら”の視線が一点へと集った。



一点、“彼女ら”が見つめる先に居るのはエプロンドレスを着こんだ、くすんだ銀髪の女性。この世のものとも思えないほど美しい造詣の彼女に浮かぶ表情は何もない。


数百にも及ぶ“彼女ら”の視線を受けても彼女は平然と常為る様子を崩さず――いつもどおりの無表情で、優雅に礼をした。





スフィア王国王城、大広間の一角。


其処には、この街の全員がいるのではないかと疑りたくなるほどの女性が――ただの一人の男もなく紅点、女性だけが集っていた。


コレは別に女性だけを集めたというのではなく、あくまで集まったのが見事に女性だけだったと言うだけである。もっともこの場に男がいたのなら、それはそれで“危ない”ということにはなるのだが……。




「本日皆様方にお集まりいただいた理由なのですが、前置きなど些細な小話はなしにいたしましょう。皆様方も、ここに集まった訳は重々承知のことと存じ上げますので」


『……』




その言葉に、妙なほどの一致を見せて頷く数百人にも及ぶ女性たち。


彼女らのしぐさを当然のことであるとまた、彼女自身も一度頷いて先を続けた。




「本日お集まりいただいた理由はほかでも御座いません、“あの男性”についてに御座います」




あの男性、と彼女が口にした瞬間に広間一体が一瞬ざわめきが広がったが、それは直ぐに収まりをみせた。


ざわついた理由は、彼女ら自身半ば判っていた事だが自分たち、特に自分以外の周りの娘子らが集まった原因がそのある男ただ一人に責があると理解したため。


そのざわめきがすぐに収まりをみせたのは、皆の注目を一身に集める彼女が再び口を開こうとするのを敏感に感じ取ったからに他ならない。




「一つに、スフィア王国を上げての全世界への指名手配……と。こちらは事前にお知らせしたとおり決定事項であり、既に準備は整っております。そうで御座いますね、リッパー様?」




リッパーと、この国でも人気の高い新女王の名が出てきたことに再びざわめきが広がる。次いで現れた一人の女性に、そのざわめきは一気に広間全体へと広がっていった。


――が。




「皆様方、どうか静粛に」


『――』


「ありがとうございます。それで、リッパー様、準備の程は既に整っているということで相違ございませんね?」


「はい。スフィアの全国力を持ってして、草の根一つかき分けてでも探し出します。……――えぇ、私はもう『女王』なのですから、このくらいの事はしても良いのです、して当然です。ふふっ、待っていてくださいね? 今度は必ず、こちらから向かいにまいります」




その瞬間、遥か彼方の地で一人の男に寒気が奔ったとか奔らなかったとか。


あと、あの心優しいとされるリッパー女王に此処まで“恨まれる”など、どんな破廉恥極まりない行いをしたのか、とかのざわめきが僅かに広がった。


噂では城門正面から堂々と乗り込んだ挙句、彼女を召使のように傍らに侍らせてまるでこの城の主にでも成ったかのようにでかい態度をしていたとか、その所為で国の重鎮や有力貴族の幾許かが頭に血を上らせた揚句に寝込んでしまったとか、終いには実はリッパー女王は既に身も心も調教されてしまっていてその男のいいなりになっている……にも関わらず『お前にはもう飽きたよ』とか言って捨てていっただとか――そんな身も蓋も“有る”話が出回ってはいるのだが、それはあくまで噂の範疇を超えないものであり、現時点では噂に過ぎない。もっとも“誰かさん”の精力的な働きで限りなく真実に近い噂と既に認識されているのだが。




「人海戦術を以てしての“追い込み”そして“狩り上げ”は基本中の基本に御座います。ですが皆様方の内で、異論があると言う方は御座いませんか?」




彼女の言葉に、直ぐ近くに女王様がいると言う事で若干気遅れ気味ではあったが、そっと一人が手を上げた。




「あ、あの〜、指名手配って、罪状は何にするんでしょうか?」



「罪状ですか? そのようなモノ、いくらでもねつ造は可能なのですが――リッパー様、此度はどのような罪状でお触れをお出しになりましたか?」


「いいえ? あのお方は罪人つみびと……いえ、私の心を奪っていった罪人ではあるのですが、罪人ざいにんではないので罪状はありませんよ? ただ――見つけ次第問答無用で連行するようにと言ってあるだけです」


「ちなみにリッパー様、連行は生死は問わずですか? それとも生きたままですか?」


「生死を問わず、です! あのお方が殺されるはずはありませんし、多少手荒になるのは致し方ない事なんですよ。ふふ、ふふふっ」


「――だ、そうです。宜しいですか?」




彼女の言葉に、また一つ手が上がる。




「あのっ、でもその場合だとリッパー女王様が独り占め……いえ、やっぱり独り勝ち、じゃなかった、……わっ、私たちに不公平じゃないんですかっ!?」




「その点は心配いりません。そうですね、リッパー様?」


「はい。仮にですが、あのお方を捕らえる事が出来たならば、即刻皆様の所に連絡が行くことを我が名に誓い約束しましょう。もし私がこれを破ることあれば、この国なり私の身なりを好きにしていただいて結構です」


「ご納得いただけましたか? それと他には何か御座いますでしょうか?」




次に手を上げるモノは誰もいなかった。少なくとも現時点での不満はない、ということか。




「では次の対策ですが、人海戦術という点においては皆様方にご協力頂きたいと考えております。皆様方、既にこちらの品々――指輪かペンダントはお持ちになっておりますでしょうか?」




彼女が手のひらに乗せてみせたのは、この広間に入る時に配られていた小物のちょっとしたアクセサリーだった。




「こちらはこの会――『新設・被害者の会』専用の品となっておりますので、ご留意を。そしてこれらについている機能は“あの男性”が近づくと警告を出す事と、警告が出たアクセサリーがどこにあるものなのかを皆様にお知らせする、その二点に御座います。これにより不用意な接近の回避と、皆様方の認識の共有を行えるものと自負しております。それとこちらのアクセサリーには互いの通話機能も備わっておりますが……そちらは補助的なものですので、皆様方で親睦を深められる際にでもご利用くだされば幸いです」




ちなみに。


今彼女がさらりと最後に言った事だが、互いの通話――通信機器は当然世界に出回っていない、どころかこんなモノが一つでもあれば戦争や情報交換など、さまざまな事が一気に有利になったりするものなのだが――。



一人の女性がさっと手を上げる。




「済みませんっ、壊れちゃたり、なくしちゃったりした場合はどうすればいいんですか?」


「良い質問です。これは本人以外が使用した場合や一定以上本人から離れていた場合、壊れる仕様となっております。ですので、ただいま指摘を受けたような場合においては、私が新しいモノをただちにお届けに参りましょう」


「ほへー、そうなんですか〜」


「はい。では他の方、質問は御座いませんか?」




誰も手を上げるモノはいなかった。




「はい、ないようですね。では次に移りますが――」






◇◇◇





それは遥か彼方の別の地。


独房の檻を挟んで中と外、互いに見つめ合うという奇妙な体勢の中、男と女が一人ずつ。




「? どうかしたの、レム兄様?」


「……いや、何か今、寒気がした気がしてな」


「ふーん、お姉ちゃんがまた何か企んだりしてたりして?」


「怖い事言うなよ。本当にそんな事してたらどうする気だ?」


「どうするって……んー、私も参加したいなぁ、それ」


「よし、まだまだ頭冷やすのが足りないみたいだな、スヘミア」


「って、ちょっとちょっと、レム兄様。今の冗談、軽い冗談だからっ。私こんなところに入ってるのもう嫌だよっ」


「もう遅い」


「そんな〜、レム兄様、酷いよっ!!」


「――ふんっ」




悲愴感“だけ”を漂わせる表情を浮かべはしていたが、その声は逆に若干の嬉しさを含んでいるようにも聞こえた。


でも、そんな事は当然過ぎて決まっている。だって、何故なら――この優しくも大馬鹿なこのヒトは、この独房に入っている限りずっと傍に居てくれるに違いないのだから。それが嬉しくないはずがなかった。







『ね、レム』




二人の間に、唐突に一人の少女が――森を連想させる緑の少女がぽんっと小さな煙を上げて現れた。




「なんだ、ユグドラシル? 何か用事でもあるのか?」


『あの子、もう食べていい?』


「駄目だ。……つーか、あの子って誰だ?」


『んー………………確か、“下僕一号様”とか呼ばれていた子』


「……やべぇ、ファイの事、忘れてた」



取り敢えず終了〜?

次回からは通常のメイドさんと旦那様の掛け合いに戻りたい……と考えております、一応は。

まだまだ先は長い……のですよ?



キスケとコトハの一問一答


「ひゃっほぅ〜、はじけるぜぇぇぇ!!!!」


「師匠が……師匠が壊れちゃったよ」


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