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Deedα. キスケ-2

のんびり午後はティータイム

漆黒の鬼――キスケはソファーに全身を預けながら、手慣れた様子で紅茶を淹れているメイド服の女の一挙動をじっと観察していた。


女が紅茶を入れる手つきには無駄があった、ただし不必要な無駄は一切ない。最低限、必要悪な無駄な動作。その無駄が彼女の動作を機械的なモノではなく優雅な仕草へと変えていた。


同時に、彼女の動作には隙がありそうでいて、実際のところ欠片ほどもかった。仮に奇襲を掛けたとしても彼女がお茶を淹れるのを邪魔する事も出来ずに取り押さえられる光景がありありと頭に浮かんでくる。


そうと分かっているからこそ、キスケは完全にソファーに身体を預けて、座り込んでいた。




「んで、俺をどうするつもりだ?」


「如何もいたしませんが?」




紅茶を淹れたティーカップをテーブルの上へとおく。


芳しい香りのする紅茶にキスケの手は自然とカップへと伸び、気がつ居た時には既に紅茶を一口飲んだ後だった。


そして当然――かどうかはさて置くとして、その紅茶はキスケが今までで飲んだ飲みモノの中で間違いなく一番おいしいと言えるものだった。




「なら俺をこんなところまで連れて来た理由は何だ?」


「はい。キスケ様は今回少しばかり“やり過ぎ”ましたのでそれ相応の罰を、と旦那様に仰せつかっております」


「罰、ねぇ。拷問の一つでもするってか?」


「いえ、そのような事は致しません。キスケ様を見て、必要もないと判断いたしました」


「……そりゃどういう意味だ?」


「それはキスケ様が一番良くご理解なさっておいででは御座いませんか?」


「……」




無言で睨みつけるものの、常人ならば身動きが取れなくなるほどの視線を受けても彼女はどこ吹く風と言った様子で、次に菓子の準備を始めた。




「……では、敢えてこちらから指摘させて頂きますが――実力のほどは理解されたでしょう?」




容器の中のクッキーを取り出して小皿へと盛り付ける。それからエプロンドレスのポケットから取り出した小瓶の中身を少しだけ振り掛けて、紅茶の時と同様にテーブルの上へと音もなく置いた。




「随分な言い様じゃねぇか」


「此度の件、余程のバカか私の旦那様でない限りは自身の相応と言うモノを理解できるはずですが?」


「そりゃ悪ぃな。俺はテメェの『旦那様』じゃねぇんで、よほどのバカって事になるな」


「そうですか。確かに口でだけなら何とでも言えますしね」


「――んだと?」




ありったけの怒気がこもった視線を受け流し、女は少しだけ――ほとんど無表情のその瞳を細めて、キスケへと向けて手を伸ばした。




「っ!?」


「つまりはこういう事です」




部屋の壁際まで飛びのいたキスケを見遣り、彼女は伸ばしかけていた手を引いて何事もなかったかのように無表情へと戻る。




「私も先の件では少々本気になってしまいましたので。やはりキスケ様も重々ご理解なされているご様子」


「……あれがテメェの本気――いや、その片鱗かよ」


「はい、お恥ずかしい限りは御座いますが、そうなります。――ですからキスケ様? 貴方がが想像されているような、例えば“地上のヒト全てを巻き込むような死闘”にはほど遠く、なり得ません」


「……格の違い、って奴かよ」


「さて? ……それよりキスケ様、そのような所に居ずにこちらへと戻ってきてくださいませ。私は何もいたしませんので」


「――ちっ」


「御席へどうぞ。紅茶が冷めてしまいます」


「なんだ、それはテメェの一動作にビビって逃げた俺への当てつけか?」


「いいえ? 私の淹れた紅茶は冷めても美味しいと旦那様以外には好評ですので、キスケ様が偏屈に考えていらっしゃるような事は御座いません」


「ちっ」


「どうかごゆるりと……少なくとも旦那様のお気が済むまではこの館にご滞在なされる事をお勧めいたします」




再びソファーへと腰を下ろして、紅茶を口に含む。――やはり今まで飲んだ飲みモノの内で一番美味いと感じられた。




「そういやぁ……おい」


「はい、何でございましょうか、キスケ様」


「スヘミアの奴はどうなってんだ? 俺と一緒に連れて来られただろ?」


「気になりますか?」


「言う気がねぇんなら言う必要はねぇ」


「スヘミア様はただいま旦那様のお仕置きを受けている最中かと思われます」


「……お仕置き、ねぇ」


「ちなみに淫靡な事では御座いませんので、ご期待には添えかねますよ?」


「んなことたぁ誰も――……いや、レムの野郎ならそれも有りは有りか」


「……もし、仮にそのような事があった場合、」


「っ!!!!」




「――実に楽しい事になりそうですね?」




愉しい事――そう言いながら僅かに笑う女の表情を、キスケは部屋の隅の天井に張り付きながら、確かに見た。



同時に思ったそうな。


――あぁ、レムの野郎、近いうちに死にかねねぇな、こりゃ……と。




と、言う訳でたまにはお客様をもてなしているメイドさん。……脅してなんかいませんよ?



キスケとコトハの一問一答


「先ずはやみくもに突っ走れ、考えるのはその後で良い」


「そう言うこと言ってるから森で迷っちゃってるんです、師匠!!」


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