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DeedΣ. ??? -吼える菩薩と啼く修羅と-

中休憩?

「ふぅ、意外と手間取ったなぁ、戻ってくるの」




アレからしばらく、漸く見慣れた空間へと帰還出来た事に翡翠の少女――“点睛の魔女”スヘミアは盛大にため息を吐いて肩を落とした。


と、言ういよりも正確には一時的に“点睛”の力を使い果たしてしまい、結果として自分が作り出した幻影の庭で“迷う”などと言う失態をした事に対する照れ隠し、の様なものだったのだが。




「おい」


「――って、うわぁ……キスケ兄の事忘れてたよ」




気づくと不機嫌そうに、しかもほぼ無傷で立つ漆黒の修羅の形相にスヘミアは露骨に表情を顰めた。


久しぶりに“点睛”の力をフルで使っての大仕事を一つしてきたところなのだ。それもこれで終わりと気を抜きかけていただけにこの状況は痛い。




「冥了の野郎はどうした、スヘミア」


「アレなら私が倒して来たよ」


「そうか。ならクソガキはどうした?」


「クソガキってコトハちゃんの……あぁ!?」


「成程。忘れてたって事は一緒に殺ってきた見てぇだな」


「い、いやっ。コトハちゃんの事は多分傷つけてないと思う……けど」


「ほーぅ」


「だって、ほら私の力って直接的な殺傷能力があるわけじゃないじゃない? だから多分コトハちゃん自身は無事……だと思うんだけどぉ」


「ならどうして此処にあのクソガキが居やがらねえ? ――まさかスヘミア、テメェ冥了の野郎を殺り損ねて来たなんてことはないよな?」


「ないないっ。それだけは絶対に……――だってあれだけやれば流石に使徒って言っても倒せてるはずだもん」




断定する、もしくはそう思い込もうとするように呟くスヘミアの言葉をキスケは黙殺した。


先程の彼女自身の言葉通り、使徒【点睛】の能力には直接あるいは実質的な殺傷能力はない。とは言っても“間接的にならば”といった具合に『最凶』の名にたぐわぬ力ではあるのだが。


それでも今この場にスヘミアだけが戻ってきて、コトハが戻って来ていないというのは在る可能性を示唆していると言える。スヘミアが勢い余って殺っちゃったか――もしくは“冥了”がまだ存命か、ということ。


それら全てを含めた上で、黙殺した。




「――それじゃ、さっそ再開と行くかぁ、スヘミア」


「……あー、キスケ兄、やっぱりやる気なのかな?」


「ったりめぇだ」


「私としてはちょっとお休みを挟みたいかなーなんて思ったりしてるんだけど?」


「お望みとあらば今すぐ休ませてやろうか?」


「え、遠慮しとく」


「そうか。なら其処を退け」


「それは無理、かな。レム兄様に任されちゃってるし」


「……そうか。なら最初の言葉、無理にでも受け取って貰うぜ。精々ゆっくり休んでいろや」




殺気をむき出しにして半歩キスケが前に出る。それに合わせてスヘミアは二歩、後ろへと下がった。




「えっと……でもほらっ、キスケ兄ってば冥了に武器を壊されちゃったわけだし、ね?」


「テメェは俺が素手でも戦える事は知ってるよなぁ。それとも、先に行ったレムのやつに相手してもらうとするか?」


「……キスケ兄、キスケ兄はやっぱりまだ――」


「まだ? まだ何だって? そもそも俺は何も変わっちゃいねぇ。冥了の野郎に横から茶々入れられはしたが、俺の気持ちは何も変わってねえ」


「でもっ、冥了の言葉は聞いてたでしょ!?」


「ああ、聞いてたな」


「なら、キスケ兄は冥了に利用されてるかもって……」


「だとしてもだ。俺を利用しようってんなら、利用しようとしてやがる野郎どももひっくるめて、全員ぶち殺してやる」


「……キスケ兄。やっぱり、戦らなくちゃダメなのかな?」


「テメェが素直に俺の目の前から去るってんなら今この場は見逃してやる」


「――そっか。ならやっぱりキスケ兄には此処で……私が矯正するよ」


「そうか。ならテメェは此処で終いだ。俺が殺る」


「今の私はきっと加減が効かないから、だからキスケ兄――ちゃんと、生き残ってね?」


「――良いセリフだ」


「点睛、残念だけどもう一仕事、行くよ?」



――了解、マイマスター・スヘミ……




突然、点睛の言葉が途切れて気配さえも消えた。と、勘違いしたのは一瞬の事。本当に小さく、何かから隠れるようにして心の奥底へと縮こまっている事の気づく。




「って、点睛? どうかしたの?」




返答はない。出てくる様子もない。ただ、点睛が震えていること、それだけしかスヘミアには分からなかった。




「じゃ、覚悟しやがれ――」


「ゃ、待った! 待った待った待った、キスケ兄、ちょっとストップ!!」


「――あん? 殺し合いに待ったもクソもあるか、」




あるかよ、と続くはずだったキスケの言葉は、それどころかキスケの身体も自身の言葉に反してその場で止まっていた。




「……んだ、これ?」


「ぅ、あぁ……」




困惑気味にキスケが声を漏らすが答えるモノは当然誰もいない。スヘミアに至っては、耐えきれずにその場で膝をついた。







――光の柱が、天を貫き空さえも割った。







「「――」」




彼方の様子を二人はただ見上げる事しかできなかった。例え遠く離れていたとしても、アレの凄さは本能だけで察する事が出来る。


あんなモノ――神代の時代と呼ばれ、最強の生命とされる龍種が繁栄を期していた太古でさえお目にかかれるものではなかったに違いない。いや、使徒さえも恐れを覚えているモノを軽々と目に出来ると言うのならば、世界そのものが狂っているとさえ言える。


――もっとも使徒“点睛”は別のモノに対して怯えを感じていたのだが、それは分かるはずもない。



こんな小競り合いなどバカバカしくなるほどの圧倒的な力の暴力。


果して二人はどのくらい呆けていた事か。光の柱が消えて、少し? それとも大分? 一瞬? 半日ほど? それとも一日も?


少なくともあの光の柱が天を貫く光景がそれほどふざけたものであったのだけは確かだった。



だがふざけた光景はそれだけではない。二人が我を取り戻したのは、さらに驚くべき光景が目に映った時だった。


それは瞬き一瞬の出来事だったのか、それとも二人が呆けていたからか、気づくと空一面を青々と茂った木々が覆っていた。何処から生えていて、果してどのくらいの大きさがあるのかなど見当もつかない。少なくとも“見渡す限りの空を木の枝が覆っている事”だけは確かなのだから。




「……はっ、なんだ、こりゃ。俺は起きたまま夢でも見てんのか?」


「……キスケ兄、これは間違いなく現実だよ」


「ならこの馬鹿げた光景はいったい何だって言うんだよ」


「多分、お姉ちゃんやレム兄様がかかわってるんだと思う、けど……」


「はっ、『白面』め。本当に真正の化けものだったかっ!! 本当にこんな力がありながら何でレムなんかに従ってやがる、あの女」


「それは……お姉ちゃんってばレム兄様にべた惚れだから、とか?」


「……冗談も大概にしやがれってんだ。それとも何か、レムの野郎ってのは実はこれ以上に馬鹿げた野郎だったりするのか? ――いや、それこそありえねぇ」


「だよ、ね。じゃあやっぱりお姉ちゃんがべた惚れになっちゃってるから、とかじゃないのかなぁ?」


「それ以外の可能性が薄すぎて考えられねぇな、おい」


「……そうだよね、うん」




そして、二人が見上げる中――空を覆っていた木々がまるで幻だったかのように、消えうせた。それこそ瞬きをする間もない一瞬で。




「う、わぁ、なんだか化かされた気分だよ」




まだ夢の中にいるように、スヘミアは空を見上げながら目をぱちくりさせていた。


キスケは、何処か疲れたようにその場へと腰を落として、苛立ちを誤魔化すように頭を大きく掻き上げた。




「全くだ。しかし、くそっ、あんなモノ見せられるとこの程度で世界を壊すとか言ってる自分が情けなくなって来やがる」


「それはきっといい事だよ、キスケ兄。サジリカお姉ちゃんだってそんな事は望んでない」


「ちっ、興が削がれた。テメェはまだ生かしといてやる、スヘミア」


「……うん」


「それに、今はあんな世界を軽くブチ壊せそうな力が在るって分かっただけでも良しとしておくか。いつかは、俺も――」




空を――ではなく、その先の何処かを見上げるキスケにスヘミアはそれ以上何もいう事はなく、キスケの傍にそっと腰を下ろすと同じように空を見上げた。


キスケは隣のスヘミアの様子をちらりと一瞥したモノの、何かを言う事はなく。




「ちっ、全くクソッタレな空だな」




と、だけ空を見上げながら漏らした。


TVとかで言うとCMタイム?な感じ。

ヒト先ずこの二人に関しては残すは後日談だけって事で。……多分。

と、言うよりもキスケさんってば当初は名前だけのモブキャラ? のはずだったのに、なぜこんな待遇に……。不思議です。



キスケとコトハの一問一答


「やれる事は今すぐやれ」


「はい師匠! さしあたっては師匠の居場所をサジリカさんに教え――むぶぅ!?」


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