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Wildfire-20


ヤツが来た!


「余り燎原の子を苛めないで上げてください」


「シャトゥ、あなたは先ほどアレに遭わされた事を忘れたのですか?」


「でも、燎原の子にもきっと何か事情があるんだと思うの。じゃないと――あの子が私に酷い事をするなんて……」


「えぇ、そうですね。シャトゥの言うとおり、本当に“燎原の子”ならば」



「くっ――“燎げ」




三人を取り巻く世界に赤が灯りかけて、がそれは一瞬で消ええなくなった。


ステイルサイトが喉と両足から血を噴き出してその場へと転がる。




「――私とてこのような事はしなくて済むのでしょうね」


「燎原の子!? 大丈夫ですか!」


「心配いりません、シャトゥ。急所は今のところは外していますので、しぶとくも無事でしょう」


「で、でも苦しそうです」


「それは何より。それよりもシャトゥ、貴女がコレを“燎原”と感じられるのなら、もっと深く感じ取ってみなさい」


「深く、ですか?」


「ええ。それで分かるはずです」


「うむ? む〜……」




赤い少女がじっと、地面に転がっているステイルサイトの姿を凝視する。


もぞもぞと動くその姿は哀れ以外何物でもなかった。もがいてはいるものの両腕を失くし両足を潰されては、丘の魚のようにその場で跳ねまわる事すら難しい。喉も潰された所為でまともに呻き声をあげる事すらできない。




「うむ? 燎原の子なのに【燎原】がいません?」


「でしょうね」


「母様、これはどういう事です? もしかして燎原のそっくりさんですか?」


「いいえ、コレが使っているのは間違いなく“燎原”の力ですよ、シャトゥ」


「……うむ?」


「コレの能力は少々特殊でしてね」


「――あぁ、成程。“能力喰い”の子なのですね」


「良く知っていますね。教えた事はなかった……いえ、そう言う事ですか。しかしシャトゥ、理解しているのならば話は早い」


「――この子、燎原を……いえ、燎原の子を食べたのね」


「……シャトゥ?」




微妙に雰囲気が変わった赤い少女に“彼女”は僅かに訝しげな表情を浮かべて、赤い少女の背後から何か紅い靄やら火花やらが吹き出たり散ったりしているのを幻視した、してしまった。




「――ふーん、それで、あの子も怒ってるんだ。燎原を! 食べられたから!!」


「シャトゥ――いえ、シャトゥル……ぬーめ?」


「はい。なんですか、母様?」


「……いえ、何でもありません」


「? おかしな母様なの」




小首を傾げる赤い少女に先ほどまでの妙な雰囲気は微塵もない。幻視した不可解な紅も今は見えてはいない。




「兎に角、これでシャトゥにも分かったでしょう? コレは燎原であって、あなたの知っている“燎原”ではありません」


「うむ、分かりました。この燎原もどきの子は燎原の子じゃないのですね」


「その通りです」


「でも母様?」


「なんですか、シャトゥ」


「それでも余り酷い事をするのは止めて欲しいの。この子が可哀想です」


「……シャトゥ」


「だめですか?」


「――分かりました。今のところ、これ以上コレに酷い事をするのは止めておきましょう。必要もないでしょうからね」


「ありがとうなの、母様!」


「いえ。シャトゥのお願いなのですから、聞かないわけにはいかないでしょう?」


「……てへへ」




優しい手つきで頭を撫でてくる“彼女”に、赤い少女は擽ったそうに、なお嬉しそうに顔をほころばせる。




「それに最終的な判断を下すのは私ではなく、旦那様です」


「レム?」


「ええ、はい。先程はつい『やり過ぎてもいいか』とも考えたのですが、一度踏みとどまってしまった以上は旦那様にお任せする事といたしましょう」


「レムめ! ……ところで母様、レムを見ないのですがレムはどこに行ったのですか?」


「旦那様ならば、あちらに」


「あちら?」




“彼女”示した先、そして赤い少女が見上げた先にあるのは、今も天を覆い尽くしている青々とした木々、“聖遺物”≪ユグドラシル≫だった。




「なに、あの様子から察しますにもうじき出てこられる事でしょう」


「つまりここで待っていればいいのですか?」


「そう言う事になりますね」


「では待ちます。……ところで燎原もどきの子、さっきから何をしているのですか?」


「シャトゥ?」


「うむ? ほら、母様、燎原もどきの子が口に咥えてるの、凄く純度の高い魔石なのです」



「――ちっ」




赤い少女の言葉が終わると同時、ステイルサイトが倒れていた地面が破砕され、ステイルサイト本人は全身から赤い焔を噴き出してその場から飛び退いていた。


慌てるように二人から離れていくステイルサイトの姿を、“彼女”は詰まらないモノを見るように、あるいはいつも通りの無表情で、ただ見逃した。




「しぶといですね。……もっともそのしぶとさすらも、あなたは旦那様に劣るでしょうが」


「貴女を侮り過ぎていたようだ。この程度の力では貴女の姿さえ追えないなんて、思いも寄らなかった。これはますます――嬉しい誤算だよ」




“彼女”が見つめる先、潰したはずの両足で立ち、潰したはずの喉で喋っているステイルサイトがいた。







「うむ? どういう事ですか?」


一人、小首を傾げて状況を理解していない赤い少女はぽつりと佇む。


はっきり言ってメイドさん一人に任せておけば既に片が付いています。他のヒト達は地味にメイドさんの邪魔をしてるだけ……の様な気もする。



キスケとコトハの一問一答


「突き詰めるならとことんやれ。中途半端は俺が許さん」


「師匠、そう言うのならこの作り掛けのイス、自分で作ってくださいよっ!」


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