Wildfire-18
レム君のターン!
「――っと、そう言えば一応聞いておくが」
『うん、なに? なに?』
思い出したように振り返る“彼”に、緑の少女は微妙に嬉しそうにして緑色の瞳で真っ直ぐと見上げてくる。
“彼”は声を弾ませている……気がする緑の少女を意識的に無視して、言葉を続けた。
「≪ユグドラシル≫、お前はあのクソ野郎が何を企んでるか知ってるか?」
『くそやろう?』
「お前の今の持ち主の事だ」
『持ち主? いま、私に持ち主はいない』
「は? でもステイルサイトの野郎が今≪ユグドラシル≫を使ってるだろ?」
『……今私を持っている男の事なら、それは違う。アレは≪ユグドラシル≫の所持者でなければ、“資格ある者”ですらない。あの男は≪ユグドラシル≫の力を勝手に使っているに過ぎない』
「ほぅ、そいつはおもしろい事を聞いたな」
『むしろ私を勝手に使われて不快ですらある。それと、アレが何を考えているのかは知らない。私はただ、喰らい続けただけ――御免なさい』
僅かに目を細めた“彼”の変化に緑の少女はすかさず謝る。
半眼で見詰めてくる“彼”の視線に自然と緑の少女の表情が硬くなる。耐えきれずに緑の少女が視線を逸らすのに時間はそうかからなかった。
それでも“彼”はじっと緑の少女を見つめ続けて、ふと口を開いた。
「ならお前は今フリーってなわけだ」
『……うん、そう』
「それで、俺にはお前を使う資格がある、みたいなこと言ってたよな?」
『その通り』
「――少し、面白くなってきたじゃねぇか」
壮絶な笑みを浮かべる――ソレは。少なくとも普段の“彼”を知っていた、この場にもう一人いた少女は“彼”が彼女の知っている“彼”ではないのではないかと、疑問に思わずにはいられない様な表情だった。
少なくともこんなにも仄暗い笑みを浮かべる“彼”を彼女は知らなかった。
その結果、自然と喉が詰まった。
「っ」
喉を引き攣らせた少女を一瞥して――“彼”は再度緑の少女へと向き直る。
「おい、≪ユグドラシル≫」
『なに?』
「二つ目だ。お前の近くに建物があるのは分かるな?」
『あの不気味な館?』
「不気味って」
『妙な力を感じる』
「ああ、なるほど。そう言う意味か。……確かに、あの館には色々と仕掛けがあるからな。妙な力って言うとその通りか」
『それで、私は何をすればいい?』
「――あの館を全て喰らえ」
『喰らえば良い? あの館を全て?』
「そうだ。地上だけじゃないぞ。地下施設を含むあの館の全てを喰らえ」
『……本当に食べてもいいの?』
「ああ、良いぞ。ただし、いつでも元通りに出来るようにしておけ」
『ソレは食べると違う……しょんぼりです』
明らかに肩を落として落胆する緑の少女。しかもそれがわざとではなく、明らかに素で行っていた。
流石にそんな緑の少女の姿を見るに見かねたのか、“彼”は緑の少女へと片腕を差し出した。
「……――ちっ、それなら俺の力を少し分けてやるからそれで我慢しておけ」
『頂きます!』
すぐさま、緑の少女は差し出された“彼”の腕へと噛みついていた。おまけに何かチューチューと吸われている。
「あ、あのレム……様、大丈夫なんですか? 何か吸われているみたいですけど?」
「問題ない。それよりも――力をくれてやるんだ。ちゃんと俺の言う事を聞いてもらうぞ」
『うん。別に力をくれなくても貴方の言う事は聞く』
「じゃあもう要らないな」
『まだ食い足りない!』
「腹八分目だ。その程度にしておけ」
『まだ一分くらい……』
「――その程度にしておけ」
『っ』
僅かに目を細めた“彼”の言葉に、今まで渋っていたのが嘘のように緑の少女はただ黙って、一も二もなくこくこくと頷いた。
「それじゃ、腹も膨れたところで」
『まだぺこぺこ』
「……膨れたよな?」
『おなかいっぱい!』
「で、≪ユグドラシル≫の腹も膨れたところで、――あの館を喰らえ」
『今すぐ食べてもいい?』
「ああ。今回はすぐに食べていいぞ。。ただし“喰い零しなく””丁寧に”な」
『うん、分かった』
僅かに目を輝かせて――少なくともそんな雰囲気をふりまいて、緑の少女は木々に埋もれた空を見上げた。
『あ――――んっ♪』
ぱくり、と。
その瞬間、轟音が木々溢れる緑の世界に響いた。
◆◆◆
「さて。それじゃ……『喚起』、“リミッタ”完全解除」
――再接続……完了、続けてリミッタ、完全解除いたします……再度確認、リミッタ完全解除、本当によろしいですね?
「ああ。“完全に”解除しろ」
――了解……“黒白”のリミッタ解除……確認、Compleate
「――よし、これで聞こえてるだろう? 俺がそっちに戻るまでもう少し遊んでやってろ。……あぁ、それとお前の事だ。俺に遠慮とかしてるかも知れねぇが、“行き過ぎて”も一向に構わん。俺が許す」
と、言う訳で何かやっちゃってます?
キスケとコトハの一問一答
「今日は熊鍋だなー」
「師匠! せめてそれは後ろの熊をやっつけてから言ってください。早くしないと、わた……体力限か」




