Wildfire-11
ちょいと、短い。
「さて、この辺りが終点のはずだが……」
“彼”は足を止めて周囲を見渡した。
相変わらず木に囲まれた場所で、見渡しても木々以外目につくモノは何一つない。
だが、それでも“彼”はその内の一点で目を留めた。
「それにしても……ふん、この程度が切り札ね。相変わらずち小せぇ野郎だ」
何も映っていないはずの其処に何かが存在していることを知っているように、“彼”は手を前へと突き出して、何かを掴み取った。
突然、巻き起こった暴風が“彼”の頬を撫でていく。それも一度ではない。“彼”を吹き飛ばそうとしているかの様な暴風が連続的に続いて、その全てが“彼”の頬を撫でて通り過ぎていく。
“彼”は暴風を気に留めない。そもそも暴風など何の抵抗にもなってはいない。
「≪ユグドラシル≫……とか言ったか、良い子にしてようぜ?」
まるで“彼”の言葉が届いているかの様に暴風が勢いを増す。明確に“彼”への敵意を向けて、暴風は鋭さを増していく。
風は集り、圧縮されて、刃に成る。空ろに成った大気は断層となり、カマイタチという別の刃を作り出す。
それでも“彼”を動かす事は、無理。
「おい≪ユグドラシル≫、俺はいい子にしてろって言ったんだ。聞こえなかったか?」
“彼”が握り締めた何かに僅かに力を入れ――幽かに朱を帯びた眼を細めた――瞬間、先ほどまでが嘘だった様にぴたりと暴風は止んだ。
「最初からそうしていればいい。それよりも折角俺がこうして訪ねて来てやってるんだ、そろそろ姿の一つでも見せたらどうだ?」
淡く小さな、緑色の光がぼぅっと“彼”の目の前に灯る。
灯った光は淡い輝きのまま一つの小さな形を取って、安定した。そしてゆっくりと光が消えていき――完全に光が消えた時、そこには一人の幼い女の子が立っていた。
さらりと流れる緑色の髪と、怯えを隠しきれぬ潤んだ緑色の瞳。一枚の布地だけを着こんだその姿は不思議と翠に茂る周りの木々達を連想させる、森の少女とでも言う言葉が似合う、そんな姿。
だが形の整った、本来ならば美しいと感じられるであろう少女の表情は恐怖に染まり切っていた。“彼”を見つめる緑色の瞳には恐怖しか映ってはない。
『貴方は……ナニ?』
「……どうしてこう言う奴らはそんな姿ばっかりしてるんだろうな。やっぱり趣味か? 趣味なのか?」
『?』
「いや、何でもない。遣り難くて仕方ないんだが、それはまあはこっちの事情だ、今は置いておく。それよりも≪ユグドラシル≫」
『……なに?』
「そう怯えるな。俺の言う事を素直に聞いていれば悪い扱いはしない」
『……ほんとう?』
「ああ、約束しよう。取り敢えず話し合いに応じる気はあるのか、≪ユグドラシル≫?」
『話を聞いてから……決める』
「一応言っておくが、お前に選択肢は俺に消されるか、それとも俺に従うか、初めからそのどっちかしかないって事は忘れるな」
『っっ』
「下手な気は起こすなって事だ。今の俺はそんな姿を取ってようが容赦がなくなりそうなくらいには機嫌が悪いからな。分かったな?」
『……分かった。話し合いに応じる』
「そうだ、それでいい」
『それで、貴方の望みは何? 私は何を喰らえば良い?』
「ああ、それとな≪ユグドラシル≫、最初に一つ言っておくぞ。――余計な事をしゃべるな。俺の言う事にだけ応えれば、それでいい」
『――……分かった、そうする』
「何が俺の気に障るか分からないからな、余計な事は口にしないのが賢明だ」
『うん』
「よし。じゃあ一つ目……――と、その前に一応“コレ”は放しておいてやろうか。ただ、おかしな気は起こすんじゃねぇぞ、≪ユグドラシル≫」
『……分かった』
掴んでいた何かを、“彼”は手放した。それを見て明らかに安堵の表情を浮かべる緑色の少女。
「それじゃ一つ目だ。≪ユグドラシル≫、お前がため込んでる力を全て解放しろ」
『分かった」
「……随分もの分かりが良いな」
『貴方の言う事に応えろと言ったのは貴方』
「そう言えばそうか」
「……でも、量、多いよ?』
「それは承知の上だ」
『世界、壊れるかも』
「それも分かってる。でも外にはあいつがいるから問題ない」
『あいつ?』
「俺の伴だ。メイド服着こんだ、バカみたいな力持てる女。お前も感じ取れるだろう?」
『……あの、バケモノのこと?』
「――おいおい“聖遺物”相手にバケモノとか言われたら終いだぞ、あいつも」
『……あの、綺麗な女のこと?』
「いやいや、態々言い直さなくてもいいから」
『そう』
「っと、それと力を解放するのは今じゃないぞ。俺の話を全部聞いてからだ。いいな?」
『……』
「って、おい。黙りこんでどうした? まさかもう解放しちまった、とか……」
『しちまいました。なのでおなか減った。ぐー』
「……あー、まあ、良いか」
と、言う訳で≪ユグドラシル≫本体? に接触中。
≪ユグドラシル≫=緑の小さな女の子、と言う事でひとつ。
キスケとコトハの一問一答
「俺は禅問答する気はない。テメェで勝手に盗みやがれ、ガキ」
「盗みは犯罪です、師匠!」




