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Wildfire-7


くるっく〜……と、言うのは平和の象徴、とかじゃないと思う。


「開いて? ……どうやら聞き間違えたみたいだけど、誰が誰の相手をするって言ったのかな?」


「二度は言わん。精々悔いてろ、ステイルサイト」




馬鹿にするような、笑えない冗談を無理に笑うかの様に口元を引き攣らせていたステイルサイトだが、悠然と歩いてくる姿を見てようやく考えを改めた。


本気で先ほどの言葉を口にしたのだ、と悟っただけではあるが。




「それは正気かな、元・ご主人さま? “彼女”が相手をするでもなく、君が相手を? この“燎原の賢者”に君が?」


「――」




もう言葉は必要ない、とばかりに口をつぐんだまま、それでも一歩ずつ確実にステイルサイトへと歩み寄っていく。


くすんだ銀髪の、メイド服の女は崩壊した窓際から一歩も動かず佇んで、ただ自らの主の進む先を見つめていた。



そうして、ステイルサイトは半ば以上を油断し切ったまま、近接の間合いへの侵入を許していた。それでも絶対の過信を持っているが故に、ステイルサイトの油断と態度は揺るがない。




「全く、妄言ならばせめて寝てから言ってもらいたいね」


「――なら、テメェが寝ていろ」




振り上げられる拳。


まだ、ステイルサイトは余裕の態度を崩しはしない。


振り下ろされてくる拳に避ける仕草も見せはしない。その動作が目に止まって見えるという理由も其処には在る。だがそれ以上に避けないのは、必要はないと自身が知っているからだ。



周囲にちりばめられた“燎原”の力はステイルサイトが許したモノ以外、触れるもの全てを魂すらも残さずに焼き尽くす。


だから避ける必要もなく、振り下ろされる拳の末路など初めから判り切っている。――そう、“そんな事”は相手も知っているはずなのに。




「――?」




拳がもう間近に迫っていたその瞬間、ステイルサイトはようやく疑問を持てた。


燃え尽きると知っていてなお、拳を振り下ろすバカはいない。元・ご主人さまは“彼女”に対するには小さな器だが、そこまで矮小で愚かではなかったはず。


それに何より、“彼女”が一歩たりとも動く素振りを見せないのははたしてどういう事か――




「っ!!!!」




疑問を浮かべたのとほぼ同時、ステイルサイトの頬に拳がめり込んで、身体を吹き飛ばしていた。




「けほっ……な、何でだ? いま、君は一体何をした?」


「テメェを殴っただけだよ」


「殴っただけ? 殴っただけだって?」


「今のはただの挨拶代わりだ。この程度でテンパってるんじゃねぇぞ」


「……いや、そうか。殴られただけ、か。あまりに芸のない攻撃だった所為で少しだけ驚いてしまったみたいだよ」


「そうか。一人で勝手に驚いてやがれ」


「でも、流石は元・ご主人さまだね。いくらなんでも流石に侮り過ぎていたようだ。――失礼、認識を改めよう」


「改める必要はねぇよ。その代りさっさと寝ておけ」




手が届く距離、そして拳を振り上げる。


ステイルサイトも流石に今度はただ黙然とその場にいる事はなかった。その姿が掻き消える。




「――遅いよ。そんな拳がまぐれで二度も当たると思っているのかい?」




真後ろ。そこまで一瞬で移動して――。


――二度目の拳が一度目と全く同じ個所に振り下ろされていた。




「――けほっ」


「あん? まぐれってのは、何の事だ?」


「っ……今、どうして、いや、何が起きた?」


「ただ殴っただけだ。さっきもそう言っただろう?」


「――……いや、本当に元・ご主人さまには参るね。一体どんなトリックを仕込んでるのか、見当がつかないよ」


「何なら教えてやろうか? 料金は特別に、薄汚いテメェの命だ」


「いや、遠慮しておくとしよう。第一、元・ご主人さまの拳はもう当たらない」


「なんだ、もう一発欲しいのか。遠慮せずとも死ぬまでぶち込んでやるから、覚悟しておけよ」


「その必要はないよ。……予定よりは少しだけ早いけど、“これ”を使わせてもらうとしよう」




掲げられるは“聖遺物”≪ユグドラシル≫。その御力は世界全てを喰らい、総てを飲み干す無限にして単一たる小枝。


その杖がどくん、と何かに打ち震えるように一度、鼓動した。




「さあ、裂き誇るんだ――世界の祝音≪ユグドラシル≫」




瞬間、ステイルサイトの持っていた小枝の杖が爆発的に膨れ上がった。


増殖し、四方八方から飛来する無数の枝は、一点を目指して互いに殺到する。




「っ――旦那様!!」




無限とも言える枝の分岐が自らの主へと襲いかかっていく様子を目にして初めて、若干の焦りを滲ませて女が動いた。


瞬きをする間に、一直線に自らの主の元へと馳せ参じる。




「――」


向かってくる女と、今まさに襲いかからんとする無限の小枝、それを何か詰まらないモノを見るように横目で一瞥して――その姿は一瞬のうちに小枝の群れの中へと呑み込まれていた。


何かレム君が相手を圧倒しても面白くないなーと言う事で。と言うよりもあのヘタレのレム君が相手をただ圧倒するのって、あり得なくね? とか思ったりします。

ちなみに、『燎原の賢者』ステイルサイトはW.R.(ワールドランク)第二位、つまり“公式見解では”世界で二番目に強いお方なのですが、今回は相手が悪すぎるのです。

ぼろくそになったとしても彼が弱いわけでは決してありません! ……と、今の内に言い訳っぽい事を書いておいてみる。



キスケとコトハの一問一答


「世界を知り、己を知れ。それが他者を知るための第一歩だ」


「はいっ、師匠! ……流石師匠です、言っている事が何だかいつもより師匠っぽい気がします」


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