DeedΣ. スヘミア-5
真面目なお話に軌道修正中……
「キスケ兄、分かってるよね?」
「ちっ、忌々しいが今の俺には指一つの抵抗すら無理そうだからな。何が起きたのかはさっぱりだが、事実だけは認めてやらぁ。今、起きてるテメェらの勝ちだ。――俺の記憶を書き換えるなりなんなり、好きにしやがれ」
「……そっか。うん、それじゃあ、遠慮なく」
「ちょ、ちょっと待って下さい、二人とも。記憶を書き換えるとかなんとか、何言ってるんですか!?」
「そのままの意味だよ。コトハちゃん、だったよね?」
「は、はい。そう言う貴女は『点睛の魔女』スヘミア様で――合ってますよね?」
「うん、その通り。あ、それとね、私は堅苦しいのって嫌いだから、私の事は気楽にスヘミアちゃんって呼んでくれればいいよ」
「ぁ……っと、それではスヘミアさん、で」
「まだ堅苦しいなぁ、ってまぁ、いっか。それよりも――何かな?」
「さっき、師匠の記憶を書き換えるとかなんとか言ってましたけど、それってどういう事ですかっ!?」
「――そのままの意味だよ。キスケ兄が戻れないって言うのなら、私が力づくでも戻すだけって、ただそれだけの事」
「戻れないとか戻すとか、なんの事を言ってるんですか!?」
「コトハ、君だって一目見れば、キスケ兄が変わっちゃったこと、判っちゃうでしょ? ううん、キスケ兄の記憶を“視た”から私は知ってる。君なら分かるはずだよ」
「分からないっ!! そんなの分かりませんし、師匠は何も変わってません!!」
「そんな事が何で言えるのっ! ……君だって――今のキスケ兄に斬り殺されかけたって、ちゃんと判ってる?」
「あ、あれはきっと何かの間違いで……」
「そんな言い訳、自分相手にも通じないって分かってるんじゃないのかな、コトハ?」
「……それは、」
「だったら、キスケ兄が変わっちゃってる事――少なくとも君や私の知ってるキスケ兄じゃなくなっちゃったって事は、ちゃんと判ってるよね?」
「で、でも師匠は師匠で……」
「認めたくないのは分かるけどね。私もそうだったし。でもね、キスケ兄は変わっちゃったんだよ。どうしようもないくらい――あの時、サジリカお姉ちゃんが死んじゃってから」
「それ、は――」
「――おい、テメェら。そう言う事は俺のいない所で話しやがれ。身体が動かせねぇだけで意識は嫌にはっきりしちまってるんだ。うっとおしくて仕方がねぇ」
「「あ、ごめん」」
◇◇◇
「……あの、スヘミアさん?」
「……何かな、コトハちゃん?」
「師匠は、やっぱり師匠だと、私はそう思います」
「根拠は、何かな? 根拠もなしに信じられるほど、私は無知でもお人好しでもないよ」
「ヒトって、そのヒトの根本まではそう簡単に変えられないじゃないですか。だから師匠だって、今はちょっと荒れてるだけできっと――」
「全く以て説得力の欠片もない理由だね」
「何で――!?」
「コトハちゃん、ヒトってね、確かにそう簡単に根本の部分までは変えられないけど、それでもね? ――ヒトを根本から壊す出来事なんて、そう珍しいものじゃないって知ってる?」
「……それこそ、根拠のない言葉だと思います。どうしてそんな事が言えるんですか?」
「ねえ、コトハちゃんは誰か好きなヒトっているのかな?」
「な、何ですかいきなり……」
「居るのかな? 好きなヒト。いつも胸の中にいる、掛け替えのない誰か。思うだけで胸が苦しくて温かくなる、そんな想いが、コトハちゃんは感じたことあるかな?」
「ななな、ないですそんなの。断じて、ないです!」
「……ふ〜ん、でもその慌て様だと、気になってるヒトはいるみたいだね?」
「居ませんっ! 断じて! 気にしてなんていませんっ!!」
「……あー、私そう言う反応みた事あるよ。ちょっと昔のラライちゃんがそんな感じだった。最も今は開き直っちゃってるみたいだけど」
「ちが、違います違うんですからぁ!!」
「おいコラ、テメェら。だから煩ぇって言ってるんだよ。大体ヒトの頭ン上できゃあきゃあと騒ぐな」
「「ご、ごめんなさい」」
「……ふんっ、どれだけ吠えようが、どうせ俺は敗者だしな。力無きものは全てを失うのが必定。判っちゃいるが、できるならさっさと俺の処分を決めてくれ」
「そんな、私たちは別に、師匠の処分なんて……」
「コトハちゃん、まだそんな事言って――」
「スヘミアさんこそまだそんな事を、」
「――ねえ、コトハちゃん。さっき、話の途中だったけど、大切なヒトがいなくなっちゃうだけで、そのヒトの心と気持ちは根本から変わっちゃう。――そんな“凄く有り触れてて当たり前の事”、世の中には幾らだってあるんだよ?」
「っ……それは、不肖ながらこの身、薬師を嗜んでいますから知っています。私もそう言うヒト達を見て、きましたから……」
「ならどうして、キスケ兄だけがそうじゃないって、そう言えるのかな?」
「それは――、でも師匠は強いヒトで、だから、」
「だからサジリカお姉ちゃんが死んだって――“冥了の涙”に殺されたって、変わらないでいられるって? そんなモノはただの買い被りだよ、コトハちゃん。大切な人を失って変わらないヒトなんて何処にもいない」
「……」
「何より、今のキスケ兄の姿がその証拠。あんなにきれいだった空色の髪が――今じゃ真っ黒。コトハちゃんは鬼族……だよね。ならこの意味は分かってるよね?」
「師匠が、“厄災”に、でもそれはきっと何か訳が――」
「その“訳”って奴が、世界に絶望したキスケ兄が世界を滅ぼそうって願った。だから、世界はキスケ兄を見離して――キスケ兄は“厄災”に成った。何かおかしな事があるかな?」
「……、ない、です」
「でも、例え世界が見放したって、私はキスケ兄を助けたい。だから壊すの、書き換えるの。キスケ兄が“厄災”である――“厄災”としての意味そのものを」
「……それが、記憶を書き換えるって事なんですか?」
「うん、そう」
「で、でも――今の話からだと、師匠の記憶を書き換えるってそれは――」
「うん、サジリカお姉ちゃんの――キスケ兄が大好きだったヒトの記憶を全部書き換える」
「それは――!!」
「それに私はキスケ兄に、今ならコトハちゃん、貴女にだって恨まれる覚悟はできてるつもりだよ。何と言っても、私はこれでも『最凶』たる“点睛”だからね。こーいうコトには他の誰よりも慣れてるつもり」
「で、でもそんなのはサジリカさんが、それに師匠だって、可哀そう過ぎますっ!!」
「サジリカって……そっか、そう言えばコトハちゃんはサジリカお姉ちゃんとも知り合いだったんだよね、ってキスケ兄のお弟子さんって事だからそれも当然か……あれ、ちょっと待ってよ」
「?」
「コト、ハ? ……キスケ兄の近所に住んでた、女の子のコトハちゃん?」
「……と、言う事はスヘミアさんって、もしかしてもしかしなくても――スヘミア“お姉さん”?」
「……う、わぁ。私、誰だか分からなかったよ」
「……私も、まさかスヘミアさんがあの“お姉さん”だったなんて、」
「どうせ私は成長してませんよーだっ」
「いえ、そう言う訳では……。ぁ、じゃあそうするとスヘミアさんと師匠の関係って――」
「あ、うん。知ってるよね、サジリカお姉ちゃんは私の本当の、血が繋がったお姉ちゃん。だからキスケ兄の事は義兄ってコトかな?」
「そんな、それじゃあ尚更、」
「それでも。私は言ったよ? 恨まれる覚悟なら出来てる、って」
「でもそれは――」
「それにね、コトハちゃん。今は君を態々こうして説得してるけど、本当ならこんな説得、する意味もないんだよ?」
「それはどういう――、っ!」
「うん、私は“点睛の魔女”だからね。それとも、コトハちゃんは私に実力で勝てるとか思っちゃってたりするのかな?」
「思い、ません……けど」
「だよね。私だってコトハちゃんみたいな可愛い女の子に手荒な真似はしたくないし。だからこれは“お願い”なんだよ、コトハちゃん。黙って私がする事を――キスケ兄からサジリカお姉ちゃんの記憶を塗り潰すのを黙って見ててはくれないかな? じゃないと、力ずくで見ててもらう事になっちゃう」
「……」
「って、こんな事言ってもちょっとずるいよね。結局はただの脅迫だし」
「……」
「でも、だからお願いね、コトハちゃん。私はサジリカお姉ちゃんの知り合いだった子を傷つけたくはないし、早くキスケ兄を助けてあげたいんだ」
「……っ、やっぱり! それは違うと思います、スヘミアさん!!」
「――違うって、何が?」
「他にっ、他にきっと何か方法があるはずなんですっ、だからサジリカさんの思い出を消すなんて、そんな事……」
「そうかもしれないね。でもね、キスケ兄がこんなになってる事なんて、もう二度とないかもしれないんだよ? それでもコトハちゃんは、何がいい手があるはずって言って、結論を先延ばしにするつもりなの?」
「そ、それは……」
――相変わらず、点睛
「「っ!?」」
――でもそれでは私が困る。せっかくの良い手駒だ。ソレをただなくすのは勿体無い。もっと世界を壊して……あの男を壊してもらわないと
「誰? それに一体どこから――」
――私は“涙”だから何処からでもあり、何処からでもない。でも、本当に情けない。それでもあなたは私と同じ、あのお方の使徒なのか?
「あの、お方? ――っ、まさか」
――まさか、私を忘れたわけではないでしょう、【点睛】?
「――“冥了”……なの?」
――正解。そして久しぶり、【点睛】
ちゃらっ、ちゃっちゃっちゃ〜
と、言う訳で前回い忘れてましたが、“夜天”とはW.R.に入っておられる“夜天の女王”の事です。漆黒の髪と瞳を持った、本当に居るのかどうかすらも定かじゃないと言われているお方……と、言うお話だったりするのです。まあ、比較的どーでもいい話ではありますが。
キスケとコトハの一問一答
「よし!」
「何が良しなのか分かりません、師匠! それと何処見て頷いてるんですかっ!?」




