Deedα. コトハ-4
少し、寝過ごしました。
「くそっ…………いま、何が起きた?」
「――師匠、大丈夫ですか!?」
「クソガキ、テメェに心配される謂れはねぇ! ――くそがっ、何で身体が動かねぇ!!」
「師匠、ちゃんと安静にしてなきゃダメですっ。あんなに高く殴……な、殴り飛ばされて? まだ生きてるって事事態ラッキーなんですから。無理に動いちゃダメです!!!!」
「触るな、クソガキっ! くっ、確か、俺は――……ちっ、駄目だ。まるで浮かんで来ねぇ」
「……キスケ兄はね、女神様に吹きとばされたの」
「女神……女神だと? はっ、ふざけるなスヘミア。神はもうこの世にはいねぇ。んなこたぁ誰だって知ってる」
「う、ん……わたしもそう思う、んだけど。さっきから点睛があれは絶対に女神様だって、譲らないし。そうじゃないとしてもあの髪、あの瞳――“灼耀”である事に違いはないよ」
「……“灼耀”だと? その“灼耀”が――いや、そもそもそんな奴がどこにいやがる?」
「あー、うん。どこかに行っちゃったけど……」
“灼耀”?
それに、女神様? 一体何の話をしているのか――
“――本当に仕方のない子だ。お陰で私の居る意味がなくなったわよ”
「!? ……な、なに?」
“ああ、驚くことはない。とは言っても、この状態では難しいか”
「だ、誰? それに何処から――」
“私はお前の目の前に居る。とは言っても今の私は意識体の一部だけの存在だがな”
「目の前、って言ったら……黒いモヤしか」
“ああ。それが私だ。分かりにくいなら――少し待て。形を取ろう”
「か、形!?」
私の目の前で、黒い“何か”がどんどん集まって、その中心に【闇】が出来上がる。すべてを吸い込んで――二度と出てこられなくなるような、そんな闇。でも不思議と目を逸らせなくなる。
その【闇】の中から腕が一本、そして体、顔と現れて――
『――よし。これでどうだ』
我に返った時には目の前に一人の女のヒトが立っていた。
漆黒の髪、漆黒の瞳、漆黒のドレスに身を包んだ、存在すること自体が奇跡と思えるような、綺麗で畏れ多い――ヒト。
「――」
『おい、コトハ。どうかしたのか?』
「――はっ!? い、いえ。なんでもありませ……、?」
あれ? でもこのヒト、改めてみるとどこかで見た事がある様な……
「あ、あの。私たち、どこかで会ったことってありましたか……?」
『ああ。少なくとも私が“私”としてお前と会うのはこれが初めてだ』
「で、ですよね? 私たち初対面……でもどこかで見覚えが――ぁっ!」
そ、そうだ。思い出した。髪と眼の色が全然違ってて、胸も少し大き――はどうでもいいとして。間違いない、このヒト、確かレム――
『思い出すな違うあれは断じて私じゃないあんなのが私であって堪るものかだから良いな絶対に、お・も・い・だ・す・な・よ?』
「は、はい。分かりました」
何だかよく分からないけれど、今私が考えた事は違っているらしい。……少なくともそう言う事にしてほしいみたいだから、そう言う事にしておこう、うん。
……と、言うよりも今更だけど、このヒトって一体――?
◇◇◇
「――ぇ、お姉ちゃ、あれ、何で此処に……?」
「っ……テメェ、さっきレムと一緒に俺から逃げ――」
『――私を“アレ”と同列にするな。消すぞ、二人とも』
「「――」」
そ、その手の中にある真黒な塊は、いったい何?
何だか見てるだけで身体が震えてくるんだけど……。
『? ……コトハ、魅入られるから余り“コレ”を視過ぎるな』
「み、魅入られるって一体何に!?」
『……この世界では『厄災』と呼ばれているモノにだ。“そう”成りたいか?』
「“そう”……?」
その女のヒトの見下ろした先にいるのは――師匠?
昔みたいな空色の髪じゃなくなって、漆黒の髪に染まった、『厄災』と成った師匠の姿。
「――テメェ、何者かは知らねぇが、好き勝手ほざくな。俺は望んで“こう”なったんだ」
『“望んで”世界の敵と呼ばれる『厄災』に堕ちたって? 若造が、余り囀るものじゃないな』
「は――んっ、囀りかどうかはテメェ自身で確かめな」
『その台詞はせめてコトハの膝の上を退いてから吐くんだね』
「ぐっ。身体さえ、動けば……」
『まあなんにせよ大人しくしてる事だ。私に半殺しにされるのがあの子に熨される事に変わったんだ。怪我しなかっただけ、有難がりな』
「「ぇ、怪我してないって――」」
『何だ、気付かなかったのか。心配せずとも掠り傷一つないはずだから、多少手荒に扱っても問題ないぞ。つまり今ならこのバカを弄り放題だ』
「「――弄り放題……ごくっ」」
「――っ!?」
『くくっ、三人とも良い表情をする』
「「あ、いや、今のはその……」」
「――ちっ」
『まあいい。これで少なくとも今はコトハに危険がなったんだ。お邪魔虫はさっさと去るとするよ』
「お邪魔虫なんて、そんな」
『いいさ、いいさ。元より余り長く“こう”しているとあいつに勘付かれるかもしれなかったんだ。或いは――気づいててわざと無視してるか、だがな。私はさっさと退場しておくに限る』
そう言い残して、初めからいなかったみたいに、そのヒトは消えた。
後に残ったのは私と師匠と、あと……点睛の魔女スヘミア? って、今思い出したけどそれってW.R.の点睛の魔女、ウソ!?
……あれ、でもそういえば今更だけど、師匠の奥さんの妹さんの名前も同じ“スヘミア”だったりするけど、これって偶然?
でも、昔の記憶のスヘミア“お姉さん”は私よりもちょっと年上っぽいだけだったし、別人だよね、うん。
……で、何をすればいいんだろうか。あ、そっか。好き勝手弄り回って……――ごくりっ
◆◆◆
その、消える間際の囁きに――。
『まぁ、何にせよ大人しくしてる事だ、キスケ。――お前が“厄災”で在る以上、“厄災”がこの私に敵う事はないんだよ?』
「――貴様は、」
『そうだな。呼びたければ“夜天”とでも呼んでおけ。もっとも会う事はもう二度とないだろうけどね』
もう、話の流れをぶち壊しにした輩がいるもので……もうどうやって話を繋げろ、という具合に迷いますね。
でもそれも仕方ないのです。唐突に女神様のお告げみたいにシャトゥ乱入が決定しましたから(汗)
とことこ行きましょう。
キスケとコトハの一問一答
「メイドを傅かせてるクソ野郎か、もしくは『僕一般人』とかほざく野郎の対処はっ!」
「ぶちのめしてすぐにその場から逃げる事です、師匠!」




