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Wildfire-4

ぷっつん。


悠然と歩を進めてく男。男の顔には怒りこそあれ、緊張や周りに対する警戒の色は一切なかった。


そして男につき従う、くすんだ銀髪の女。その顔には一切の感情は浮かんではいない。



二人が歩いてきた道には死屍累々、と言わんばかりに武器を手にしたまま倒れたモノたちの姿が積み重なってあった。


彼らは皆、不運にも二人と遭遇して――その瞬間、一撃で意識を沈められた、有象無象の連中である。


有象無象の、ある意味では愚かな被害者の彼らに二人が必要以上の意識を払う事はない。男に至っては彼らに一切の注意すら払ってはいなかった。




「――旦那様」


「ああ、分かってる」


「私が助力に向かいましょうか?」


「放っておけ。結局あれはどこまでいってもあいつらだけの問題だ。俺たちが手ぇ出したり、茶々入れたりする事じゃない」


「了承いたしました、旦那様。……では、“こちら”は如何いたしましょうか?」


「害がないから放っておけばいい。もし、俺の邪魔をする気なら――、だ」


「はい、旦那様。ではその御心のままに」


「で、そこでこそこそしてる奴、どっちだ? 俺の邪魔をする気か?」




「……何だい、もうばれちゃってたのかい」




二人の後方から、すぅ……と音もなく一人の女が姿を現す。


胸元が大きく肌蹴た扇情的な服を着た、緑の色素を含んだ髪質の――男神チートクライの系譜の、女。



やれやれ、と首を竦めている仕草すら、何処か欲情を掻き立てられるものがある。




「当然だ。あんな下手な尾行、張り付かれた瞬間に察知できる」


「流石にそこまで下手ではなかったかと……。お久しぶりに御座います、ミーシャ様」




「あたしをその名前で呼ぶんじゃないよっ、『白面』!!」




「私は白面などと言う、あんな愚劣で優秀なモノではないと、何度申し上げればご理解いただけるのでしょうか?」


「無理だろ。お前の事を『白面』って誤解してる奴は其処ら中にいるからな」


「……不愉快極まりない誤解なのですが」


「諦めろ。――で、こんなところにいるって事は偶然会いましたねお久しぶりーってわけでもないんだろう、ミーシャ?」




「ああ。当然その通りさね」




「……私は駄目で、旦那様ならよろしいのですか、そうですか」




「っ!? だ、だからあたしの事はその名前で呼ぶんじゃないよって言ってるだろう!!」




「見事に取ってつけた言い方」


「そう言ってやるな。あいつにも色々とあるんだよ」


「色々、ですか。……――確かにその通りでございますね、旦那様?」


「それで? ミーシャって呼ぶなって事はお前の事はなんて呼べばいいんだ?」




「そうだね……『幻惑の薔薇』とでも呼んでもらおうかいっ」




「旦那様、あそこに痛いお方がおられます」


「言ってやるな。あいつにも色々とあるんだよ」


「色々、ですか。……お可哀想に」




「うるさいっ、あんたに同情される謂われはないよ、白面!!」




「ですから私は白面などと言うモノではないと――」


「おい」


「……申し訳ございませんでした、旦那様。元より私の事情など些細な事。それよりも幻惑の薔薇様、問答しか用がないのであれば、即刻私どもの視界から去っては下さりませんでしょうか?」




「はんっ、そんなに凄んだところで――あんた今魔力を封じられてるんだろう? そんな奴をあたしが怖がるとでも――」




「幻惑の薔薇様は――絶対的な強者を存じておられますか?」




「は? 何を言って――?」




「私は大変良く、存じ上げております。ですので……高々魔力が封じられた程度で私が貴女様に叶わないとでも――真に本気で、そう御思いか?」




「つ、強がったって無駄だよっ。あんたが今魔法を使えないってのは本当の事で――」




「おい」


「はい、旦那様。如何なされましたか?」




「お、おい。あたしを無視するな――」




「俺は先に行かせてもらうぞ」


「はい、旦那様。このような茶番に付き合うのは、私一人で十分かと」


「そうだな。じゃないと今の俺は話を聞いてるだけで――うっかり壊しちまいそうだ」


「旦那様、それは――」


「ああ、その時はお前が俺を止めろ。いいな?」


「はい、旦那様。この身に換えましても」




「あんた達、あたしの事を無視してるんじゃないよ。それにレム、――“これ”が何か、分かるかい?」




「ミーシャ様、それは――!!」


「――あぁ、そうか」


「旦那様お待ち」


「――おい、ミーシャ」




「な、なんだい!? ……っと、だからあたしの事をその名前で呼ぶんじゃないって言ってるだろうっ!!」




「そんなくだらない事はどうでもいい。それよりもミーシャ、それが何か、ちゃんと理解しているか?」


「ミーシャ様、即刻――」


「“黙れ”」


「っ――、は、い……旦那、様」


「さあ、答えろ。お前はソレが何で、何処から摘んできたか理解しているのか?」




「ふ、ふふんっ、それだけ怒るって事は――レム、あんたにとって相当大切なものだったようだね、この花と、あの花壇は」




「……ああ、そうだな。その通りだ」




「ははっ、なら良い気味――」




「お前が今手に持ってる花は、あそこの花壇にしか咲いてない、俺が作った改良種で。あれは、あの花壇は――――アルーシアが大切に育てていたモノだ」




「――?」




「≪砕け――」


「旦那様、失礼致しますっ!!」


「……、何だ、俺の邪魔をする気か?」


「はい、旦那様。それが旦那様の望みであるが故に。今の旦那様は、我が身に換えましてもお止めさせて頂く所存で御座います」




「ぉ、おい? だから、さっきからあたしを無視して話を進めるんじゃないって――」




「まだ、ご理解しておられませんか、幻惑の……いえ、ミーシャ様。貴女は今、命を拾ったのですよ? そして、私が旦那様の拘束を僅かでも緩めた瞬間、命を落とします」




「――っ!?」




「――手を離せ」


「いえ、離しません」


「あれは――あの花壇は、アルーシアが一番大切にしてたものだぞ? それを踏み躙られてお前は何も感じないのか?」


「感じ入るモノがない……とは申しません。ですが旦那様? 旦那様は一つだけ勘違いをなさっておられます」


「勘違い? 俺が?」


「はい。――ええ、いい機会です。申し上げさせて頂きますが、あの花壇は確かにアルが大切に世話をしていましたが、その理由を旦那様はご存じ……の訳は御座いませんか。今の姿を見れば十二分に察しがつきます」


「おい、どういう意味だ、それは」


「旦那様はあの花壇を初めて見られた時、『綺麗だな』と、そう御褒めになられたそうですね。覚えておいででしょうか?」


「ああ、覚えてる。けどそれがどうした?」


「いえ、旦那様。つまりはそう言う――ただそれだけの事で、だからこそ今の旦那様のお姿など本末転倒も良いところです」


「――、……おい、離せ」


「頭は冷えましたか、旦那様?」


「分別がある程度は、な」


「では離しましょう。……旦那様、大変失礼を。申し開きも御座いません」


「いい。気にするな」


「はい、旦那様」




「お、おいあんたら、……あたしを、」




「……ああ、まだ残っておられましたか、ミーシャ様。ですがミーシャ様、やはり悪戯で旦那様の――あの子の花壇を踏み躙るのは、少々やり過ぎですよ?」




瞬間、男の傍に控えていた女の姿がその傍から僅かに霞み、向こうでミーシャと呼ばれていた女の姿ががくり、と崩れ落ちていた。




「――殺ったのか?」


「旦那様では御座いません、物騒な事を仰らないで下さいませ。眠らせただけです。ミーシャ様へのお仕置きの程は……後ほど旦那様がなされてはいかがですか?」


「考えておこう」


「旦那様の、えっち」


「……、なあ、お前のふざけようとする気持ちは分からないでもない。だから一度だけは許す。けどな、時と場合を選べよ? 例えお前であっても――半殺しに遇いてぇか?」


「遠慮させて頂きます。それが旦那様の望みとあれば否は御座いませんが、それでは今の様に旦那様をお止めする事も叶わなくなってしまいますので」


「そうか」


「はい」


「下らない事で時間を喰った、あのクソ野郎をのさばらせておくだけでも癪に障る。急ぐぞ」


「はい、旦那様。――それと、旦那様?」


「……なんだ」


「旦那様の花壇は、八割方はちゃんと無事に御座いますので、ご心配なさらぬよう」


「……あぁ、ミーシャだって俺があの花壇大切にしてたのは知ってたはずだし、あれが殆どハッタリだって判っちゃ、いたんだけどな。あの花を見た瞬間につい、な。俺を止めてくれて助かった」


「いえ。当然の事をしたまでで、感謝される事では御座いません、旦那様」


「そうか」


「はい」


「……じゃ、行くぞ」


「はい、旦那様」


まだ続きます。

そしてやっぱり二人とも? まだプッツンとブチ切れ中。



キスケとコトハの一問一答


「その胸に詰まっているモノは何だ!」


「……、師匠のえっち!!」


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