ど-298. 辿り着いた先
彷徨い走って?
「……此処は何処だ」
「この景色は……スフィア王都に御座います、旦那様」
「スフィア? どうやったらスフィアに着けるんだ、ってそれは何かおかしくないか?」
「おかしい事など、旦那様の存在以外は何一つ御座いませんとも。どうやら私たちは勢い余って様々な箇所を素通りしてきてしまった様子に御座いますね」
「……道理で。すっげぇ疲れてるわけだ」
「おめでとうございます、旦那様。八日七晩爆走を続けたのはこれまでにない新記録に御座います」
「そんな記録、次は二度と更新したくないぞ」
「それは旦那様のご尽力次第かと」
「可能な限り、こんな事が二度と起こらないように微力を尽くそう」
「全力を尽くすのではないので?」
「俺の全力は全てがお嬢さんの為だけにあるんだ。自分の為に全力を振り絞るほど、俺は酔狂じゃないぞ?」
「今旦那様が仰られた事、それこそが限りない程の酔狂かと」
「そんな事はない。お嬢さんが幸せになるのは俺の生きる意味、原動力と言っても過言じゃない」
「それは過言かと、存じ上げますが?」
「いや、そんな事はない。……ないはずだけど、お前にそう言われると少しだけ疑いたくなる気持ちだな」
「それこそ思う存分十二分に、ご自身を疑われる事を推奨致します」
「例えば『俺は何のために生きているのだろう……?』とか言う事なんかを考えればいいのか」
「旦那様の生きている意味……?」
「ぇ、どうしてそこで不思議がられるんだ?」
「……、いえ、まさか旦那様からそのようなお言葉を耳にする日が来ようとは、想像もしておりませんでしたので」
「それはどういう意味だ」
「いえ、大それた意味などは御座いませんが、しかし――」
「しかし?」
「旦那様の生きている意味など、御座いません」
「え、おい、それはどういう意味だよ、ってか俺の生きている意味と言ったらそれは世界中のお嬢さんを幸せにするために決まってるだろうが。いや、むしろそれ以外に何がありますか? ってくらい当然の真理だよな」
「……、そう、でしたね。今の旦那様は旦那様であって旦那様ではなかったのでしたね。忘れておりました」
「それどういう意味だよ?」
「例え本質はお変わりなくとも、一番大切な事をお忘れになっておられるという事ですよ、旦那様」
「益々意味が分からん。そう言えば前にもそんな事言ってた気がするけど、俺は忘れてる事なんて何もないぞ」
「……そうで御座いますね」
「ああ、そうだとも」
「――、申し訳ございませんでした。今の発言は即刻忘れて頂けると幸いです」
「ま、お前も色々と大変な事があったばっかりだし、疲れてるのかもな」
「大変な事と言われますと、今も十二分、旦那様のお世話をする事が大変なのですが」
「済まないな、お前には苦労を掛ける」
「いえ。これは私どもが自ら進んで行っている事ですので、旦那様が起きになされる必要は御座いません。むしろ――重荷と感じるのであれば、今すぐにでも捨て置いてくだされば幸いかと」
「そんな哀しくなるようなこと言うなって」
「申し訳ございません。旦那様を悲しませるつもりで申し上げたわけではないのですが」
「俺がお前を捨てるとか、そう言う事は絶対に、例え何があろうともあり得ないから。そんな可能性を論じる必要すらない事を考えるんじゃねえ。これは命令だぞ」
「……、おや珍しい。旦那様が私に命令なされるなど」
「聞けないか?」
「その様な事は御座いません。旦那様のご命令とあらば、例えそれがどのように理不尽な事であろうとも従いますとも」
「……嫌なときはちゃんと嫌って言えよ?」
「心得ております。旦那様のご杞憂はしかと胸の内に留め置いておりますとも」
「なら、良いけどな」
「はい。旦那様のお心遣いに、感謝いたします」
「や、別に感謝されるようなことでもないし」
「そうですね。感謝するだけ損を致しました」
「……やっぱり感謝してくれ」
「相も変わらぬ、実に図々しい旦那様でございますね。……ありがとうございます、旦那様。これで宜しいでしょうか?」
「いや、何か空しかった」
「そうですか。では参りましょうか、旦那様」
「参る? って、どこに行く気だ?」
「折角スフィアまで来たのですから、旦那様のみが称している“俺の女”の方々へ御挨拶をなさりに向かっては如何ですか?」
「おっ、それもそうだな。ちゃんと顔を見せて、安心させてあげないとな。偶にはいい事言うな、お前も」
「いえ。……お嬢様方が安心するかどうかは、果てさて如何なものかと」
此処は何処だ―、うがー!!
旦那様の(余計な)一言
「この俺の存在が世界を、否! お嬢さんを救う」




