ど-296. お元気ですか?
元気じゃないです
「さて、と。それじゃあ早速――」
「旦那様、大変申し上げにくい事なのですが、少々お時間の程を取らせて頂いても宜しいでしょうか?」
「……それって良い知らせか、それとも悪い知らせ?」
「如何で御座いましょう? 旦那様にとっては良い知らせとも悪い知らせとも、どちらとも申し上げる事が出来る気が致します」
「んー、そうか。どのみち聞いて見ないと分からない事ではあるしな。それで、一体どんな驚愕な事実が発覚したんだ?」
「何故、驚愕の事実と断定なさっておられるのでしょうか」
「いや、だってお前が言い出し難い事って言ったら、それはもう凄い事なんだろう?」
「凄いと言いましょうか、何と申し上げればよいでしょうか。率直に申し上げればそれ程大それた事ではないのですが」
「なら率直に言ってくれればそれでいい。可能な限り装飾語を吐けずに、簡潔に」
「では旦那様」
「応、何だ?」
「このようなモノが届いて居る事につい先ほど気づきました」
「手紙……?」
「はい。いつ私の荷物に紛れたのか全く覚えがないのですが、気づくと所持しておりました」
「へー、まあつい先日まで驚異的なまでに運が悪かったからな、お前。そんな事もあったりするか」
「その様な戯言での言い訳などしたくはないのですが、事実としてその通りに御座います、旦那様」
「ま、気にするなって。それで一体どんな手紙なのかなー、と……」
「一通目はシルファ様と申される方から。結婚しました、との事でした」
「へー、シルファから、結こ……、何だとっ!?」
「ですから、シルファ様と申される方が結婚しました、との報告が書かれておりました」
「俺は結婚した覚えはないぞ!?」
「では旦那様以外の方と結婚なされたのでしょう?」
「そんなバカな事実があるはずがないっ!!」
「事実は潔くお認めになられるのが一番かと存じ上げますが?」
「け、けどしかし……」
「それと旦那様、感違いなされているご様子ですので申し上げて置きますが、その手紙のシルファ様――シルファラル・シトラス様と旦那様と既知のシルファ・クリミナ様とは全くの別人に御座います」
「……ぇ、そうなの、か?」
「はい。手紙の方を呼んでいただければ直ぐにでも分かると思いますが」
「えっと、何々……差出人は、っと。シルファラル・シトラス……? あ、本当だ」
「少々慌て過ぎなのです、旦那様。そもそも私の存ぜぬ間に紛れ込んでいた手紙である、と最初に申し上げておいたはずで御座います。旦那様におかれましてはもう少し落ち着かれる事をお勧めいたします」
「いや、でも、なぁ。ああいう言い方されれr場誰だって勘違いするだろ?」
「手紙を読めば一目瞭然のはずで御座いますが?」
「ぐっ。……んで、次の手紙は、っと」
「ハカポゥ様からで御座いました」
「どうせまた同名の別人からってオチなんだろ?」
「いえ、その手紙は間違いなく、旦那様も知っておられるハカポゥ様からのモノでした」
「なにっ!?」
「ちなみに内容は旦那様が設立なされた何でも屋『出逢いと絆』が閉鎖されたというモノでした」
「え、なんで……?」
「これも手紙を読めば判明する事ですが、ハカポゥ様の人気が凄いらしく、またスフィアの王都へ移転すると言う事情も御座いましてならばいっその事……との事で、人気のない旦那様の何でも屋は閉店、そして空前絶後の繁盛を誇っているハカポゥ様の『人生お悩み相談室』はこのたびギルドの一つとして任命されることになったとの事に御座いました」
「この短期間にギルドにまで上り詰めるとは、やるなぁ、ハカポゥちゃん」
「旦那様とは腕の見せどころが違うという事では御座いませんか?」
「まあ、悔しいが実際その通りなのかもな。それにギルドにまでなったって言うんなら、俺のところが閉店するってのも仕方ないか。少しさみしいが、これも命運だと思って諦めるとしよう」
「寂しがっておられるのは旦那さまお一人では御座いますが」
「それを言うな。たぶん、本当にその通りだろうけど言われると余計に悲しくなるから」
「失礼いたしました」
「いや、事実だから別にいいけどな。それで、三通目は、っと」
「態々私に内容の確認をしてくるというのであれば一度に全ての手紙の内容をご報告させて頂きますが?」
「あ、それもそうだな。じゃあ頼む」
「はい。それと旦那様、残りの八通なのですが、旦那様に関係のある手紙が三通、関係のない手紙が五通で御座いましたが、関係のない手紙の内容もお聞きになられますか?」
「あー、いや止めておく。さっきみたいに勘違いするのも癪だしな」
「了承いたしました、旦那様。では残り三通ですが、チェイカ様、サラサ様、コトハ様の三名からとなっております。ちなみに送り先は旦那様では御座いませんので悪しからずご了承を」
「ああ、解った。それで、何か他人の手紙を盗み読むってのは気が乗らないけど、どんな内容だったんだ?」
「チェイカ様のお手紙はご両親に当ててのモノでした。お見合いを強く勧めてくるご両親に対して、私は好きなヒトができたからお見合いは嫌です、との趣旨でした」
「ふっ、俺もつくづく罪な男だぜ」
「……、それで次の手紙、サラサ様ですが、」
「ああ、病気はもう治ったはずだよな? それで、どんな事だって?」
「はい。姉のアイシャ様へのお手紙で御座いましたが、身体には十分に気をつける事、と書かれておりました」
「へぇ、アイシャはまたどこかにいてるのか。せっかく妹の病気が治ってるはずなんだから、傍にいればいいのに」
「それと、旦那様にお逢いしても殺すのは我慢するように、との趣旨の内容が記されておりました。何とか九分殺し程度で我慢するように、との事でございます。よかったですね、旦那様?」
「……あ、ああ。そうだな。でも、どうしてアイシャに会ったら俺は殺されなきゃいけないんだ?」
「――さて? そして、最後の事は様のお手紙で御座いますが……」
「ああ、コトハのは何だって?」
「――スヘミア様へ。お元気ですか、との事でした」
「へぇ、あいつら知り合い、ってそう言えばコトハってキスケの事を知ってたのか。それじゃあスヘミアと知り合いって可能性もあるわけだ」
「はい。それと、キスケ様の居場所の手がかりを見つけたのでこれから向かいます、とも記されておりました」
「……キスケの?」
「はい」
「……、まあ、俺には関係のない事か。よしんば関係があったとしても、今のところは手を出せる筋合いじゃないしな」
「はい。……これで私の所持していた手紙の内容は以上で御座います。旦那様には一度ご自身で読まれることをお勧めいたしますが?」
「ああ、そうしておくよ。それで、その手紙だけど……」
「はい。私が責任を持ちまして、全ての手紙を送り相手へとお届けしておくと致しましょう」
「ああ、頼んだぞ」
「はい」
200話あたりから出て来ていた皆さんの、近況報告。
旦那様の(余計な)一言
「愛で世界を救うぜ!」




