ど-287. 堕ちた先は地獄、ではないと良いな
空に向かって真っ逆様に落ちていく。
「んー、流石に飽きてきたな」
「そうなのですか、旦那様?」
「お前は飽きてこないのか?」
「いえ、全く」
「そうかぁ〜? でも世界中を回るのも、これで98回目だぞ。さすがに飽きるというか、ここまで見つからないもはもはや天晴れと言う以外にないというか」
「旦那様、実はシャトゥに嫌われているのでは御座いませんか? だから避けられている、とは考える事ができませんでしょうか」
「嫌われてるってのは兎も角として、俺も一応避けられてるんじゃないかって事は少し考えたんだけどな。でもそれもないだろうという結論に落ち着いた」
「その理由を窺ってもよろしいでしょうか?」
「そんなモノは当然、俺が素敵すぎるからだ。俺に会いたいって言うのならまだ分からない事もないが、素敵無敵過ぎるこの俺に会いたくないってのはあり得ないだろ、実際問題として」
「果してそうでしょうか」
「お、何だ。挑発的な発言だな、おい」
「いえ、そのような意図は断じて塵芥も御座いませんが」
「ほんとかぁ〜」
「旦那様に疑われるなど、何と悲しい事なのでしょうか」
「あ、いや。別にそう言う訳じゃないんだけどな。でもお前の言葉を疑わないってのにも不思議な抵抗が……あれ、おかしいな。お嬢さんの言う事ならば無条件で信じたっていいはずなのに」
「いえ、恐らくはそこまで旦那様が――それこそ記憶や魂に依らないほどまでに私めの事を理解してくださっているという事で御座いましょう」
「それも確かにあるだろうけど、本当にそれだけなのか?」
「それだけ、とはどのような意味で?」
「いや。何か胸の奥の方からさ、また何とも言い表しようのない不思議な感覚が湧きあがってくる気もするのだが……」
「それは旦那様の気のせいですので私は気にしません」
「お前が気にしなくても俺が気になるんだけど?」
「それがどうかされましたか?」
「……いや、まぁ、多分お前の言ってるとおり俺の気のせいって事なんだろうけどな。何と言ってもお嬢さんの言う事に間違いは……例え有ったとしてもこの俺が信じずして他の誰が信じるってモノだからな」
「正に、その通りに御座いますね、旦那様?」
「ああ、そうだとも。ああ、でもやっぱりお前の言う事にだけは何故か抵抗が……実に不思議な感覚だ」
「これもひとえに旦那様の私への愛のなせる業かと」
「あー、取り敢えずそう言う事にしておくか」
「何とも気のないお返事」
「いや。俺がお嬢さんに対して愛を囁くのはいわば生き物が生きてるって事と同じくらいに当り前な事のはずなんだけどな。事この件に関してはやっぱり不思議と気が乗らないんだよ」
「……何ともつれないお言葉」
「いや、そりゃまあ、お前には悪いな、とは思うけどよ」
「いえ、旦那様のお心がそのように望まれているのであれば、私は如何なる事であれ従うのみに御座います」
「悪いな」
「その様な事は、強いて言うならば今の旦那様の行いの九割方が悪いだけで御座いますので、お気になさらないで下さいませ」
「……あれ? 何かやっぱり俺が悪いって言われてないか、それ」
「いえ、そのような事は断じて御座いませんとも。何より元よりの事ですので今更気をお留めされたところで手遅れ、たとえ気に留めたとしても旦那様がその行動を変えられることはあり得ない事ですので、やはり行っても詮無き事かと」
「そうか。お前が気に留めても意味がないって言うのなら、それは仕方ないよな、もう」
「はい。ですので精々悔い改めてくださいませ、旦那様」
「ああ。何を悔い改めればいいのかがさっぱりだが、――いやっ!? 確かにお嬢さんたちの涙を止めにいけない今の俺の不甲斐無さを悔い改める必要はあるよなっ。と、言う訳だからさっさとシャトゥの奴を見つけてお前の不自由を解いてやって、それから改めて世界中のお嬢さんをオトしにいくぜっ!!」
「私は、まずは旦那様がオチる事を期待いたします。……何処に、までとは敢えて申し上げませんが」
オチの部分はやっぱりレム君担当がいいな、と言う事で、ひとつ。
レム君の身体には既にメイドさんの日頃の行いが染みついている、と言う事なのです。
旦那様の(余計な)一言
「もう我慢ならんっ!」