ど-286. ドラゴンとトカゲは違う生き物です
ドラゴン料理、とかはある意味メイドさんの天敵。
「えぇい! 毒を食らわば皿までだっ!!」
「それでこそ旦那様で御座います」
「……何ヒト事みたいに言ってるんだ? お前も遠慮するなよ」
「いえ、せっかくの旦那様のお心遣い、まこと私などには勿体無い限りでは御座いますが、謹んで遠慮させて頂きます」
「そう遠慮するなって」
「いえ、遠慮いたします」
「……俺が喰えって言ってるんだぞ?」
「でははっきり申し上げさせていただきますが、――嫌です」
「本当にはっきりと言いやがったな」
「はい。こうすればいくら鈍感愚鈍朴念仁極まりない旦那様であろうとも意図を伝える事の可能性程度は生じてくるというものでしょう?」
「ああ、確かに伝わったぞ。お前が絶対に要らないって言ってるってのがなっ」
「私の想いが旦那様に伝わり通じ合えた事の、何と幸いな事でしょうか」
「……で、だ。そう言われるとどうやってでも食べさせたくなって来たぞ」
「嫌です」
「ほら、“あーん”ってしてやるから」
「そのお言葉は大変魅力的では御座いますが、遠慮させて頂きます。代わりに私めが――旦那様、あーん?」
「あー、んぐっ!? っ、っ、っ〜〜」
「……まるで雛鳥の様に条件反射的に口を開けてしまわれる旦那様はご立派で御座います。憐みすら感じてしまいます」
「ォ、ぉ譲さんから“あーん”なんてされた日には、たとえそれがどんなものであれ食べないわけにはいかないからな」
「それは既に一種の拷問ですね」
「そんな事は、ない。お嬢さんが手ずから食べさせてくれるって言うのなら、それは例え泥団子でも最高のごちそうになる……んだっ!!」
「現状でそのお言葉を吐く事が出来る旦那様の決意は感服すると言わざるを得ないのですが。ではもう一口どうぞ、あーん?」
「あー、んぐっ!? っっっ〜〜〜〜〜〜」
「ではこの調子で残り全ての処理を言ってみましょうか、旦那様」
「おま、俺を殺す気かっ!?」
「自慢では御座いますが、こんなにも見目麗しい私に手ずから食べさせて貰うのですよ。最高のごちそうなのでしょう、旦那様?」
「その通りだ、ああその通りだともっ!!!!」
「涙目ですが?」
「そう思うなら少しは遠慮しようとか言う気はないのか、お前は」
「此処で遠慮などすれば私へとお鉢が回ってくるのは疑いようのない事実に御座いますれば。旦那様の御口に料理を運ぶ事に何を躊躇う必要が御座いましょうか。それに旦那様も私が手ずから食べさせてもらえる、と言う事に大変歓ばれているご様子ですので」
「……ふっ、こうなったら俺も覚悟を決めようじゃないか。なに、最初に言った通り、毒を食らわば皿までだともっ。こんなもの――幾らだってどんと来いってもんだぜっ!!」
「では遠慮なく――」
「…………ぐふっ。やっぱりなぁ、火トカゲの丸焼は独特のえぐみが有ってどうにも好きになれない味だな。しかも若干、毒抜きに失敗してる気もするし……ぁ、駄目、何か意識堕ちそ――」
ちなみにメイドさんは旦那様意外の目があるところじゃ平然と食べます。なんでも食べます。レム君と二人きりのときのみ、好き嫌いが発生します。主にトカゲ料理とか。
旦那様の(余計な)一言
「爬虫類」