ど-30. 西洋から来た悪魔
早いもので三十話。
…あれ?四十部ほどあるよ?何故だろう?
「西洋から来た悪魔」
「は?」
「いえ、言ってみただけです」
「そうか」
「はい」
「………」
「………」
「…で?」
「で、とはどのようなご用件でしょうか?」
「だから、今の前振りには一体どんな意味があったんだ、と聞いたんだよ」
「ありません。それはもう驚く事に旦那様の存在価値ほどもありません。それ以下です」
「微妙に嫌な言い方だな。それはアレか、今の言葉が価値がないと取ればいいのか、それとも俺の存在自体が実に価値がないと言いたいのか、どっちだ?」
「当然両方に決まっておりますが、それは如何程と致しましても今更なのではないでしょうか?」
「…それもそうだね」
「では旦那様もご納得いただけたようですので、こちらをご覧ください」
「納得なんてどれだけ譲ってもしてないが……何だ、その如何にも怪しげな小瓶は?」
「はい、こちらの小瓶に付属されておりました古代語の羊皮紙を解読いたしました結果、このように記されておりました。曰く、『この小瓶は世をも滅ぼす悪魔を封印したものである。決してあける事はならない。……尤もこの封を破る事が出来たらだけどね、ぷぷー』と」
「そうか。で、俺にその小瓶をどうしようか、って事で相談しにきたんだなっ?」
「旦那様のこの世の終わりのような悲痛な表情から察しますに既にお分かりの事かとは存じ上げますが旦那様の儚さすら言葉で表すには不足しております事実を申し上げますに、こちらの小瓶の封は既に解かれてしまいました。小瓶が発見された際についうっかりと…」
「う、うっかりとじゃすまないだろうがっ、世界を滅ぼすほどの悪魔?……成る程、道理で今朝方派手な爆音が聞こえたわけだ。アレが封が解けた音って訳だな。聞きたくはないが聞かざるを得ないか。で、結局どうなったんだ?」
「旦那様の足りないを通り越してそもそも存在すらしない頭にも解る様に簡潔に結論だけ申し上げますに、封を解かれこちらの小瓶から御出でなされました自称悪魔のスィーカット様はミミルッポ様の使い魔になられました」
「……もういいです、聞きたくない。何か今心配するのもあほらしい想像が頭に過ぎったから」
「恐らく旦那様のご想像の通りかと。それにしてもミミルッポ様にあのような才があるとは知りませんでした。…旦那様は既にご存知で?」
「ああ?ミミルッポが幻魔問わずに生物に好かれるアレか?まあ一応知ってたぞ。あれは…そうだな、俺の感じだとありゃ純粋な対個人の特殊能力だな。言い換えれば突然変異って奴だ」
「そうですか」
「お、何だ、自分だけ知らなかったから拗ねてるのか?」
「いえ、別段そのような驚愕すべき事実は一切御座いませんが」
「あ、そう。詰まらん」
「それに世を破壊する悪魔と称されていたようですが所詮は小物でした事ですしね。一応世界を壊す程度の事は出来そうでしたが」
「……悪い、今ぼそっと言ったこと、ああ否繰り返す必要はないから、俺は何も聞いてないからそれはお前の胸のうちだけでとどめておいてくれ。聞くと疲れるから、主に俺が」
「はい、了承いたしました旦那様。それでは封を解かれ出てくるなり庭の一角を焦土にされようとしたスィーカット様を我を忘れてしまい私がつい全殺しにしかけてしまった際に、丁度その場におられたミミルッポ様により命辛々助けられたスィーカット様が懐く形でミミルッポ様の使い魔になられた、という事実は私の胸の内に留めておけばよろしいのですね?」
「出来ればその驚愕の事実もお前の胸の内に留めたまま俺に話さないでいてくれると嬉しかったりした」
「ちなみに焦土にされかけた庭の一角とは旦那様がこの私よりも大切になされておられるあの花壇ですが、他に仰られる事は御座いませんか?」
「良くやった、愛してるぞっ!!………あ、それとお前よりも花壇の方が大事だなんてそんな事ないからな、一応」
「…その旦那様の心底取って付けられましたようなお言葉、身に余る光栄で御座います」
「じゃ、俺はちょっと花壇の様子を見てくるから、事後処理が他にもあるなら後頼んだぞ!!」
「……行ってしまわれましたか。やはり、スィーカット様が花壇を焼かれようとなされた時にお止めすべきではなかったでしょうか?…いえ、そうも参りませんか。しかし花壇を焼かれそうになった程度で理性の七割が飛んでしまうとは私どももまだ甘い――否、仕方ない事ではありますか」
本日の一口メモ〜
登場人物紹介(久々の〜)
スィーカット
小瓶から出てきた世界を滅ぼすとされた悪魔。
何の因果か今はミミルッポの使い間として、結局は館の小遣い魔として働いている。
ちなみにこいつは数少ない男キャラです。男ですよ、男っ!?
…何が嬉しいかって?いや、別に嬉しくもないけどね。