ど-284. 後ろにいるぞ!
……何がでしょうか?
ゆ〜れい、とか。
「――旦那様」
「ああ、判ってる」
「二名でしょうか」
「だな」
「目的は?」
「さてな。心当たりだけなら吐いて捨てるほどあるからな。ただし、」
「彼らがどれだけその心当たりを存じているかは不明ですが、ですか?」
「ああ。まぁ、一番妥当なのが俺の美貌に嫉妬した男どもが逆恨みでつけてきてるってのが一番有力だけどな」
「美貌? どなたがですか?」
「俺以外に誰がいるんだよ。……そりゃ、お前には負けるけどな」
「確かに私は自分で言うのもお恥ずかしい限りですが、美人で器量もよしスタイルも理想的であり知力体力においては言うに及ばず、旦那様の驚愕すべきある種の才能と同様に全てにおいて目を見張るものがある、嫁にすれば幸せになる事間違いなしであるのは確かに周知の事実に御座いましょう」
「確かにそれだけ言ってりゃ、恥ずかしくもなるよな。……まあ、全部が全部本当ってのは実際その通りであるわけだが。そして俺の才能も言うに及ばずなわけだがっ」
「お褒め頂きありがとうございます、旦那様。そしてお間違えなさらぬよう、私は“ある種の”才能と申し上げているのであって、あまり肯定的な意味に取られない方が御身の為にもよろしいですよ?」
「大丈夫だ。俺の才能、もとい俺の魅力は言葉にする必要もないほどに常時溢れ出ているものなんだからなっ!」
「その通りに御座いますね、旦那様? 止め処なく流れ出過ぎているように、私にも感じられます」
「だろう? と、言う訳で今つけてる奴はヤローで、きっと俺に嫉妬した奴に違いないな、うん、そうに決まっている」
「確かに今つけてきているお二方は香りから見て男性でしょうが、旦那様に嫉妬されただけにしましては尾行が上手過ぎる気がしますが?」
「偶然、そう言う仕事の奴だったんだろ、きっと」
「今の旦那様であれば、確かにそのような事は御座いましょうが……」
「どうした、何か心配事でもあるのか?」
「いえ、旦那様にお知らせご相談する程の事でも御座いません。それに、私の杞憂に越した事はないでしょうし」
「そう言う言い方されると気になるな。杞憂でもいいから話せって言いたくなってくる」
「いえ、最近運が悪いので過敏になり過ぎてるだけかもしれません」
「まあ、確かにそうかもしれないな」
「それで旦那様、如何いたしましょう?」
「如何って、今つけてきてる二人の事か?」
「はい。処理しておきましょうか、それとも撒きますか?」
「いや、何もしなくていいぞ」
「では放っておかれると?」
「ああ。どっちにしても俺に嫉妬する奴は減らないだろうし、実害なんてないから放っておけばいいんじゃないか」
「あくまで旦那様の魅力に嫉妬された方々、と言い切るおつもりですか」
「だって、事実だし?」
「既に事実になってしまっているのですね」
「何と言っても、態々確認する必要もないほどの事実だからな」
「そうですか」
「そうなんだよ」
「では仰る通り放置しておく事に致しましょう」
「ま、この程度は気にするなって事だよ」
「……それもそうで御座いますね、旦那様」
何事もなく。特に取り立ててあげる事件もなく。日常は平平凡凡(?)、淡々と過ぎていくのです。
旦那様の(余計な)一言
「ふっ、俺に触れると火傷じゃ済まないぜ、お嬢さん?」