ど-283. 大切にしたい
何事も大切にしたいものです。
「空って広くて素敵だよなぁ……」
「如何なされたのですか、旦那様?」
「いや。ふと、空っていいなぁと思ってな」
「実に唐突なお言葉で御座いますね、旦那様。いえ、旦那様が唐突・突拍子もない・嘘偽り有りなのはいつもの事と言えばいつもの事なので、別段唐突と言う訳でもないのでしょうか」
「そんなに急にな事だったか?」
「いえ。何せ旦那様でしたので、急ではないと判断いたしました」
「何だ、そりゃ」
「それで、旦那様。如何なされますか?」
「ん? 如何って、何の事だ」
「旦那様がお望みとあらば、ヒト一人を抱えて飛び立つ事など造作も御座いませんが?」
「ん〜、いやいい。空ってのはただ眺めて、憧れてるからいいものであって実際に飛んだり手を伸ばしてもな。……また見上げる先が少し遠のくだけだ」
「……そうですか」
「何だ、少し残念そう?」
「いえ、そのような事は断じて御座いません」
「そうかぁ?」
「はい。しかしながら旦那様、一言具申させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、良いぞ。なんだ?」
「では……旦那様はそこまで理解しておられながら、なぜ手を伸ばそうとなさるのですか?」
「んん? ……まぁ、そりゃそこに空があるからじゃないのか」
「――成程。つまり旦那様がお嬢様方を追いかけられる理由はそこにお嬢様が其処におられるからである、と言う事ですか」
「何処からそんな結論が出たのかはちょっと気になるが、間違ってはないなっ!」
「そうですか。しかし旦那様、先日まではあれほどお嬢様方を追いかけまわしておられたというのに、最近はめっきりで御座いますね?」
「……それは自覚して言ってるのか?」
「何の事でしょうか?」
「惚けてるんだとしたらいい度胸だが……ほら、お子最近はお前にべったりとくっついてなきゃいけないだろ?」
「そうで御座いますね。もし旦那様と離れてしまいますと世にも恐ろしい事が……!」
「一言で言えばお前が不運のどん底に陥るな」
「……はい」
「と、言う訳で今もお前と腕組みしながら歩いているわけだが、ここで問題が一つ」
「何で御座いましょうか」
「コブ付きだと色々とお嬢さんの対応が変わってくる。具体的に言うなら『浮気はダメですよ、めっ』みたいな対応に総じてなってくるので相手にされなくなるんだ」
「それは、朗報ですね」
「誰がどう聞いても悲報だろうが。と、言う訳だから無暗に俺の為に涙を流すお嬢さん方を増やさないために今は新しい出会いを求めるのは控えているという訳だ。どうだ、理解したか?」
「はい、旦那様が私にぞっこんラヴ状態であるという事を正しく理解致しました」
「敢えて否定はしない。だがしかしっ――俺の愛はお前一人のものではなくて世界中全てのお嬢さんの為のモノだという事を決して忘れるなっ!!」
「今すぐ頭部を強打すればお忘れになられますか?」
「いや、魂にまで刻まれているはずだからその程度で忘れると思うなよっ」
「それは、残念です」
「ま、それに大切なお前の事を放っておくという訳にもいかねぇしな」
「……そうですか」
「照れてる?」
「いえ、そのような事は……少々ならば御座いますが」
「だから、お前の為にも、世界中のお嬢さんの為にも、一刻も早くシャトゥの奴を見つけないとな」
「そうで御座いますね、旦那様。……しかし探索はこれで何度目なのですか?」
「……四十七回目だ」
シャトゥ、未だ見つからず!!
旦那様の(余計な)一言
「俺の魂が猛って唸る――この慟哭はだれにも止められないぜっ!!」