ど-282. 空からの贈り物
贈り物は大切に
「旦那様、手に持っておられるモノは何ですか?」
「知らん。何か空から降ってきた」
「……空から、ですか」
「そういやな顔するなって」
「私はそのような表情を浮かべてなど居りませんが?」
「確かに表情は無表情そのモノだけど、何となくだ」
「なんとなく、ですか。さすがは旦那様、私の事をよく見ておいでで――と、ここは取り敢えず世辞で誤魔化しておくと致しましょうか」
「そう強がるなって。まあ、お前がここ最近空から降ってくるものに良い印象がないのは理解できるけどな」
「いえ、そのような事は」
「あるだろ?」
「……はい、御座いますね」
「つーか、毎日飽きもせずに剣やら槍やら盾やら魔法やら、終いにはヒトとか魔物とか“厄災”まで降ってきてたらそりゃ嫌にもなるだろ、普通」
「実はいつしか旦那様が降ってこないものかと期待しておりました」
「それはどういう意味だ。俺の代わりの旦那様、って意味なのか、それとも――」
「私の旦那様はいついかなる時場合をおきましても旦那様お一人のみ。今この瞬間、私の目の前に居られます旦那様以外の旦那様など私には居りませんし、これより先何があろうとも変わる事など断じて在り得ません」
「……つまりお前が言いたいのはアレだよな。この俺が、空から降ってきて欲しいとか思ってたわけだよな。それともまさか、分裂体とかそんな恐ろしい事は――」
「さて、どうでしょうか。それは正直迷うところでは御座いますが」
「……、まあ、仮に俺の分裂体(?)が存在したとしても、だ。この俺は俺一人なわけで、俺の素晴らしさを完全完璧に真似たり再現する事はどうやっても不可能なんだから、そう慌てたり恐れたりする必要はないわけ、だがっ!」
「正にその通りに御座いますね、旦那様。これで、たとえ旦那様のそっくりさんが現れたとしても、慌てる必要など御座いませんね?」
「俺が自分で言い正した事なんだが……お前に言われると逆に不安になるのはどうしてだろう?」
「旦那様の私に対します信頼の表れかと」
「そうか、……信頼か、……」
「所で旦那様、そちらはいったい何なのですか?」
「さあ? 良く分からん。何か不思議な感じはするんだけど……聖遺物か何かかな?」
「旦那様、少々お借りしてよろしいでしょうか?」
「ああ、良いけど、気をつけろよ。お前、今はただでさえ運が悪いんだから」
「重々承知しております。――では、」
「ほらよ」
「……、――、……」
「で、どうだ。何か分かりそうか?」
「いえ、残念ながら私にもよく分かりません。確かに力の様なものを感じは致しますが、果して聖遺物かどうかは。特に聖遺物特有の死の香りが染みついている、と言う訳でも御座いませんし」
「だよな。全然血生臭いって感じじゃないもんな、コレ」
「はい」
「ん〜、でも何となく捨て難いんだよなぁ」
「そうで御座いますね」
「ま、一応持っておくか。あとで何かいい事がある……気がしないでもないし」
「旦那様がそうきめられたのでしたら、そのように」
「ああ。しっかし、本当にこれ、何なんだろうな?」
「さて? 形状は黄金色の、輪っか……なのでしょうか、これは。手首に通すブレスレットとしては少々大きすぎる嫌いが御座いますが。もしかすると過去の巨人族たちの指輪か何かでしょうか?」
「かもな。でも意外と頭に被せるみたいに、頭上に置くモノだったりしてな」
「どのような危険があるかも判断いたしかねますので、無謀な事はおやめ下さいませ、旦那様?」
「判ってるって。扱いだってちゃんと慎重にはしてるつもりだ。草々トチらねぇよ」
「ならば、宜しいのですが」
「ま、取り敢えずこの黄金の輪っか? の事は保留と言う事で。天からの贈り物と言う事でありがたく貰っておくとするか」
「天からの贈り物、で御座いますか。天に唾を吐いておられる旦那様では……何かしらの罠ではない事を祈っておくと致しましょうか。旦那様であれば、大丈夫とは思いますが、念のため――」
しゅびどぅばでぃ〜……いつもながら、意味はない。何となくそんな気分なだけ。
旦那様の(よけいな)一言
「俺は――天使だっ」