ど-279. 照れますね
頬に赤みがさすのは健康な証拠です
「……朝か」
「旦那様、お早う御座います」
「ああ、お早う、ってどうした?」
「……どうした、とは果して何の事に御座いましょうか?」
「いや、何の事つーか、そんなに毛布の中に縮こまってどうしたんだよ?」
「ソコは察してくださいませ、旦那様」
「察するって何をだ?」
「朝起きたら旦那様の寝顔がすぐ傍に、そして同衾かつ旦那様の二の腕を抱きしめながら目覚めたとあれば、」
「ああ、つまり照れてただけか」
「……これだから旦那様と言う旦那様は、本当に困ったお方です」
「何だよ、その俺が悪いような、もしくは旦那様と言う存在そのものが悪いような言い方は」
「どちらも間違ってはおりません。敢えて申し上げるのでしたら、間違いなく前者では御座いますが」
「俺が悪いのか」
「旦那様は全ての事象において須らく存在悪で御座いましょうに。何を今さら仰いますか」
「俺は断じて存在悪なんかじゃないぞっ。むしろ愛を世界中に広める、必要善と言っても良いくらいのお嬢さんたちへの伝道師だ」
「その通りに御座いますね。涙と悲しみの伝道師ですね?」
「まあ、そうともう言うかもしれないな。でも、世界にたった一人しかいない俺との逢瀬に涙し、別れに悲しみ頬には涙。……俺って、本当に罪だよな。そう言う意味じゃ、確かに存在そのものが悪と言えなくもないかもしれない」
「この外道」
「ふっ、世界中のお嬢さんの為なら敢えて道を踏み外す事も俺は厭わない男だ!」
「言葉のチョイスを間違えました。では――この、女誑し」
「おいおい、俺は女誑しなんかじゃないぞ?」
「そうで御座いますね。元より全く相手にもされないのであれば、女誑しなどと呼べるはずも御座いませんでしたね、旦那様?」
「いや、俺が相手にされないんじゃなくって、お嬢さん達全員が俺の溢れんばかりの素晴らしい魅力に参ってつい照れてしまっているだけなんだ。ま、あまりに当然のことであり、仕方のないことでもあるけどなっ」
「溢れ出した魅力が腐臭を発してはおりませんか?」
「ないない。あり得ないから、そんなの」
「そうですね。旦那様の存在並にあり得ない事で御座いますね」
「そうだとも……って、それは遠回りに俺の魅力は腐ってるとでもいいたいのか?」
「只今の発言を遠まわしな言い回しであるとご理解されるのであれば、それは勘違いかと」
「ふっ、ならもっと直接的に言ってるって事か? お前もやるねぇ」
「いえ、旦那様ほどでは御座いませんとも」
「……んで、皮肉を吐いたら少しは恥ずかしさが薄れたか?」
「……――旦那様、それを蒸し返すなど、ずるい」
「そう思うんならいい加減布団の中から出て来いっての」
「旦那様の、えっち」
「ふふっ、お望みとあらば俺はえっちにもドスケベェにも、万年発情狼にでもなってやろう」
「いえ、それは結構です。と言いますか既になっているモノに再びなるなど、いくら旦那様であろうとも不可能かと存じ上げます」
「この状況で――いい度胸だなぁ!!」
「きゃっ」
「ふふふ、……げへへ、……うっへっへ〜」
「――で、単なる悪ふざけはいい加減にして下さいませ旦那様!」
世界はくるりくるりと回っております。
為にならないメイドの小話
「そして“それ”はあなたの背後に居ます」