ど-277. 少し休み
休み、たい
「んー、今日はちょっとお休み、かな。雨降ってるし」
「そんな、まさか。旦那様が濡れ滴る女性の服の鑑賞をされようとしないとは、さてはこの旦那様は偽物ですか?」
「偽物――偽物だと? この素晴らしい俺が偽物のはずがないだろう。何処をどう見たらこの俺を偽物と間違えられるんだ?」
「……そうで御座いますね、確かにその物言い、旦那様に相違ございませんでした」
「そうだろう、そうだろうよ」
「ついあの時失敗したダミ――いえ何でも御座いません」
「何か、今凄く気になる事を言いかけた気がするんだが?」
「旦那様の気を惹こうとする私なりの話術ですので、気になされないで下さいませ」
「そうなのか? 全く、一々そんな事をしなくたって、ちゃんとお前に構ってあげる事を忘れたりはしないよ?」
「申し訳ございません、旦那様」
「いや、気に病むことでもないけどな。そうやって俺に恋い焦がれて、ちょっと困った行動を起こしてしまうのは世のお嬢さんなら仕方のない、ある意味で当然とも言える行動なわけだしな」
「その通りに御座いますね?」
「ああ、だから気にするな」
「はい、旦那様。……しかし、旦那様?」
「何だ?」
「雨の一つや二つ、豪雨嵐の三つや四つで何かされるのを躊躇うなど、旦那様にしては珍しいと思うのですが?」
「確かにな。この俺の想いは、お嬢さんへの愛は嵐だろうが世界崩壊の序曲だろうが止められるものじゃないからな」
「では私の涙ではいかがでしょうか。旦那様は止まってくださますか?」
「間違いなく、止まるな。お嬢さんの涙より優先すべきものはこの世には存在しない」
「流石は旦那様。そのような事を言い切られるとは、馬鹿ですね」
「ああそうさ、お嬢さんの為、俺の愛の為なら馬鹿にもなるさ。いや、元より愛の為にある程度周りが見えなくなるのは覚悟の上だ」
「その様な覚悟など、世界の外側にでも捨てて来て下さいませ」
「……そうかっ! 確かに、それもそうだな。何事も、初めから諦めてちゃダメだよな、うん」
「何の事ですか?」
「愛の為に馬鹿になるのはいい。けど初めから馬鹿になる気でお嬢さんを愛するのは間違ってるって事だ」
「旦那様は元よりどうしようもないほどの大馬鹿ですので、今更気に止められる必要は一切ないのではないかと、私は考えますが」
「ふっ、お前は既に俺は愛の盲目、恋の迷宮に陥ってると、そう言いたいわけだな」
「旦那様がそれでご納得されるのでしたら、それで宜しいかと。しかしながら旦那様、やはりお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「何を……って、あぁ、雨だから休みって事か?」
「はい」
「そりゃきまってるだろ。雨の日に外になんて出てみろ。……お前、凄い事になるぞ」
「私の為、で御座いますか?」
「ああ。てか、それ以外に何か俺の行動を妨げるような要因でもあるのか?」
「……いえ、そうで御座いますね旦那様。では旦那様仰られるよう、本日は宿の中で大人しく過ごすと致しましょうか」
「ああ、そうだな。俺にべったりとくっついてりゃ例の不幸も起きないだろうし、今日はのんびりとしよう」
「――はい。私の、旦那様」
と言うより眠いのです眠いのです眠いのですー!!!
為にならないメイドの小話
「睡眠は正しくとった方が、精神衛生面的にもよろしいですよ?」