ど-267. どぢっコなんて、言わないで
ドジじゃなくて、不運なだけです
「なあ、ちょっと思ったんだけど」
「……何で御座いましょうか、旦那様?」
「その前に、髪の毛に枯草が絡まってて、服は何か知らない生物の毛で酷い事になってるぞ?」
「少々お待ち下さいませ」
「ああ」
「お待たせいたしました」
「うん、相変わらず早い仕事だな。ちゃんと綺麗になったよ?」
「お褒め頂きありがとうございます。それで旦那様、先ほど言いかけた事は何でしょうか?」
「ああ。そうだったな。お前さ、最近みょ〜な行動ばっかりしてる気がするだけど――」
「旦那様の気の所為です」
「……あのよ、どぢっこメイドとか目指してるわけ?」
「今ほど切実に旦那様を殴り飛ばしたいと痛感した事は御座いません」
「照れるなって」
「一度地獄で性格を矯正なさって来られる事をお勧めいたします、旦那様♪」
「……久しぶりにお前の殺気に当てられた気がする。と、言うよりも今までの殺気とは微妙に違う感じがする」
「でしたら冗談でもそのような事は仰らないで下さいます様」
「そうだよな、お前ってどっちかって言うとクールなメイドさんを目指してるもんなっ!」
「……、誰もそのようなモノ目指してなど居りません」
「え!? そうだったのか!!」
「私は私であり、他の何者であるつもりも目指すつもりも一切御座いません」
「……ふっ、格好良い事を言ってくれるじゃないか」
「いえ、改めて旦那様にお褒め頂くまでの事でも御座いません」
「――俺が目指す俺は、俺を見て世界中全てのヒトが幸せに笑っていられる俺でいる事だっ!!」
「だから?」
「……もっと感想とか、言おうぜ?」
「旦那様はお笑い芸人を目指されておいでだったのですね。初耳に御座いました」
「俺も初耳だな、それは。俺はお笑い芸人を目指していたのか」
「はい、その通りで御座います、旦那様。ですがご安心を旦那様は生まれ出でた時より資質には恵まれておりますので」
「いや勝手に俺の目指してるもの決めるなよ、ってかそんな資質に恵まれても嬉しくないよ」
「そんなっ、旦那様の、唯一とも言えるプラス方面の取り柄をご自身で否定なされるとは……旦那様は正気であられますね?」
「ああ、当然正気に決まってるだろう。それに俺の取り柄はお笑い芸人としての資質だけじゃないぞ?」
「それは否定なされないので?」
「お前が言うからにはあるんだろ、そういう素質が俺に」
「……そうですね。俗に言う、トラブル体質というものですが」
「それで、俺の取り柄はそれだけじゃないぞ」
「世界のお嬢様が困っていると発見できる謎の探知感覚やお嬢様限定で物事を確信なされる超直観力の事を仰られておいでで?」
「何だ、言わずとも分かってるじゃないか」
「はい。ですがこれらの取り得はプラス方面の取り柄ではありませんので」
「プラスじゃなかったらマイナスとでも?」
「流石は旦那様、常に世界に害を与えておいでですね?」
「そんな事はない。俺が与えているのは愛だけだ」
「お嬢様方限定で?」
「俺は男色じゃないからな」
「そうですか。――困ったお方」
「ふふっ、そんな事言いつつずっとついて来てくれるお前の存在は凄く在り難いよ」
「……いえ、そんなこ、っ!!」
「白、か」
「ちなみに上も同じ色です、旦那様」
「いや、実際ロングスカートで下着まで見える風って、あり得ないだろ。つか、わざとじゃないのか?」
「そのような事は断じて御座いませ――ん!!!」
「……見事にこけたな。しかも何もない所で、頭から突っ込んで」
「……」
「痛そうだが、大丈夫か? ほら、掴まれよ」
「……、何の事でしょうか旦那様?」
「そんな何事もなかったように言われても、ほら、まだお前の綺麗な髪の毛によく分からない白いもじゃもじゃが絡まってるから」
「……恐縮です」
「いや、いいけどさ。本当にお前、最近変だぞ。本気でドジっ娘メイドでも目指し始めたのか? それなら手伝う、っと、危ねぇー」
「殴りまし……――」
「すっげー驚きだ。こんなところに落とし穴が。実に身体を張ったギャグだとは思うけど……おーい、大丈夫かー?」
「……恥辱です」
別に、何かを目指してるとかそんなのじゃありません……よ?
為にならないメイドの小話
「ポイントは、何があっても動じない事、そしてなかった様に振る舞う事、です」