ど-264. 体調、不良?
人生谷ありゃ、谷あるさ
「時折旦那様を殴りたくて仕方なくなります」
「うを!? ……っと、そう言いながら殴るなよ。殴るならせめて事前に言ってくれ。そうすれば心構えもできるから」
「では旦那様、刺してもよろしいですか?」
「……何をだ。何を刺す気なんだ?」
「嫉妬と言う名の、恋に恋するキューピットの矢ですか?」
「そうか。なら仕方ないな。男の度量としてここは受け止めておくべきだろう。さあ来い、今来いどんと来いっ!」
「では遠慮な――っ!?」
「ど、どうした!?」
「いえ、少々不穏な空気が……っ!!」
「おや? いま何か通り過ぎたような気が……って、その額どうしたんだ?」
「……額、とは何の事でしょうか、旦那様?」
「いや、何か赤くなってるけど、大丈夫か?」
「問題御座いません。少々、小石が当たった程度ですので」
「小石って、痛くないか?」
「はい。痛みの方はそれほどでも御座いません。が、どうにも感覚の方の調子が悪く、」
「そう言えばそうだよな。小石程度、いつものお前なら避けられないはずがないもんな」
「旦那様にそのように認識されていること自体は真に嬉しい限りで御座いますが。そうですね、正直申し上げますと魔力も安定しないため、恐らく魔法y・魔術の類を行うのも事実上不可能かと」
「珍しいな、お前がそこまで調子悪いなんて」
「確かに。近年稀に見ておりませんが」
「お前が調子が悪かったのって確か“冥了の涙”に憑かれた時だったか?」
「はい、そのように記憶しております」
「今回ははたまたどうしてだ?」
「それは、……」
「って、体調が悪いのに理由なんてんなないか。調子が悪いなら調子が悪いだけだよな」
「……」
「少し休んだ方がいいんじゃないのか?」
「そうさせて頂きたいのは山々なのですが、旦那様」
「ん、なんだ。何か欲しいモノでもあるのか?」
「いえ、それは……。そう、で御座いますね。私としましては旦那様についていてもらえるのならば、それだけで感無量です。他に欲するモノなど有ろうはずも御座いません」
「そうか? ならずっと傍にいてやるけど……」
「ありがとうございます、旦那様」
「ゃ、この程度はそれほどのことでもないけどな」
「しかし……やはり“アレ”の所為でしょうか。どうにも調子、と言うより運気、と申しましょうか、正直なところ悪いというレベルではないのですが……ふぅ」
人生転落ちゅー
為にならないメイドさんの話
「疲れた時は癒されましょう。そして旦那様は馬車馬以上に働かせましょう」