Deed.α. とあるメイドさん
引き続き、一休み。
……会話じゃない。
「……さて、如何したものなのでしょうね、“コレ”は」
と、呟いたものの応えはない。
それも当然、周りには彼女の他に誰ひとりとしていないのだから。
彼女が手に持つのは透明な液体を密封した小瓶――それを氷漬けにした球体、それだけ。目には見えないが更に呪で厳重に束縛したり時空間を固定したりとあるのだが、それはまあいい。
「飲むべきか、飲まざるべきか、選択肢など二つ以外にないというのに、困ったものです。いえ、しかし旦那様が飲めば宜しいと、そもそもコレはシャトゥが――あぁ、いえ、それに何より私たちは……」
一人悶々と――それが全くの無表情だったとしても、それは非常に珍しい光景には違いなかった。残念な事に周りには生き物の影一つ見当たりはしないが。
そして、彼女はわずかに逡巡するように間をおいてから。
「――」
その一息で、手にしていた氷の塊が粉々に崩れ落ちた、目には見えないが種々の封印も道連れにして。結果、彼女の手に残ったのは何の変哲もない唯の小瓶――と、その中に収まっている“謎液体”なるもの。
「……、よし」
決意の言葉を自らの踏ん切りにして、彼女は小瓶を開けた。そしてその中身を一気に飲み干す。
「……、これは、本当に旦那様が仰られていた通り驚くほどに美味な液体ですね。かと言って何で構成されているのかが私の舌でも不明なのはやはりとも言うべきものですが……」
ハズレっ!
「……、はぃ?」
だからハズレだよ〜、ぶぶ〜、期待した? 期待してたの?
でもはずれ〜、てかお前なんて呪われろ、むしろ呪われろ、そして呪われてしまえ
「……さて、今のが旦那様の時と同様の現象なのは確かでしょうが、果たしてどういう意味なのでしょうね? 呪い? 全く、どういう意味なのか……っ!?」
一瞬、彼女は身を翻した。その残像を通過していく、何か。それは彼女の眼を以てしても視認できなかった。
「今の、は――、ふへ?」
警戒するように一歩踏み出し、その瞬間に足元を取られる。
其処は当然、無様な姿はさらさず空中一回転で見事地面に着地したのだが。自らが足を取られたものを確認して、彼女は僅かに嘆息した。
「……なんですか、この皮は、と言うよりも明らかに先ほどまで存在しなかった気もするのですが……まさか、ハズレ? と、言うよりもこれが呪い? どこの誰の、と言うよりも何の嫌がらせですか、これは」
応えるモノは誰も、何もない。もとよりこの場所には彼女一人しかいないのだから。
……だから、元より彼女が足を取られるような果物の皮など存在するはずもない――はずだった。
アルメイドさんの苦悩。
そして不幸が加速する……と、良かったり悪かったり?