ど-X. ある時
ある日、ある時、ある場所で。
ある二人の、とある何でもない会話。
「ねー、レム」
「なんだ」
「んー、何でもない。ちょっと呼んでみただけ」
「なんだそりゃ」
「えっとね、……やっぱりなんでもなーい」
「なんだよ、気になるじゃないか」
「えっと、あのね?」
「ああ、なんだ?」
「レムは、ないかな? 何となく誰かの名前を呼びたくなる時とかって。……例えばわたしのこと、とか」
「んー、そうだな。んでな?」
「ぅ、うんっ」
「ちょっと、距離が近いぞー。ふとしたことで唇と唇が触れ合いそうだ」
「〜〜〜っ!!!! レムのえっち!」
「あははははっ、悪い悪い、ちょっとおふざけが過ぎたみたいだな。それとも、まだ少し早かったかな?」
「む〜、そんな事ないもんっ。わたしもう立派な“れでぃ”なんだから。お兄ちゃんは、それにシロとクロだってそう言ってくれたんだから。だからわたしのことを子ども扱いするのはレムくらいのものなんです!」
「シロとクロ?」
「あ、うん。真っ白だからシロで、真黒だからクロ。どうせ聞いても教えてくれないんだから、勝手につけちゃった。やっぱり駄目かな?」
「いや、良いと思うぞ。てかむしろ内心でニヤニヤしての大喜びじゃないのか?」
「そっか。なら、よかった」
「それで、そのシロクロさんが立派なれでぃだって、そう言ったのか?」
「うん」
「だはははははははっ」
「な、何で笑うの!?」
「あいつでも冗談言うのな、と言うよりも冗談言うのも上手くなったよなー」
「それってどういう意味なの、レム!?」
「はいはい。ほら、ちゃんとした“れでぃ”なんだろう? これくらいで怒るなってば」
「立派な“れでぃ”でも怒る時はちゃんと怒らないと駄目なんだよ。と、いうわけだからわたしは怒ってもいいのっ」
「あー、はいはい。俺が悪かったよ。俺が悪かったから機嫌を直してくれ。な?」
「……なら、レムがわたしの名前を呼んでくれたら、許してあげる」
「なんだ、そんな事でいいのか?」
「――そんな事、っていうのはね、本当はいつだって、全然『そんな事』なんかじゃないんだよ?」
「――。……これで良いか?」
「っっっ、そそ、そう言う耳元に囁くみたいなのじゃなくって、」
「顔、真っ赤だぞ、――アルーシア」
「……むぅ、レムってば、ずるい」
「は? ずるいって、何がだよ?」
「ずるいったらずるいのっ、レムはすっごくずるいのっ!!」
「んな無茶な。でも……なぁ、アルーシア」
「……なに、レム」
「――……いや。何となく呼んでみただけだ」
「あ! それわたしの真似っ」
「あぁ、うん、そう言えばそうだな。何となく、さっきアルが言ってた事の意味が分かった気がするよ」
「……ほんと?」
「ああ、本当だ」
「…………、そっか」
「なぁ、アル?」
「なぁに、レム?」
「何でもない。ちょっと呼んでみただけだ」
「そっか。……もうっ、レムってば甘えん坊さんだよねっ」
「なんだそりゃ」
「何だも何も……そのままのいーみー」
「ははっ、なおさら意味分からねー」
ちょっと、小休止?
昔のお話です。