ど-263. 綴る想いの丈で
なむなむ
「……ふぅ」
「どうした、俺への恋煩いか?」
「はい、旦那様」
「そうか、なら今すぐ解決だなっ」
「そんなバカな」
「いや、俺がお前を受け入れて、それで解決だろう?」
「何故そのようになるのか、旦那様の嗜好と思考のみではなく存在自体が甚だ疑問でなりません」
「それは――俺が素敵すぎるが故の罪っ!」
「わーすてきなすれちがいー」
「そうだ。お前も分かってきたじゃないか。恋とか愛ってモノはいつだってすれ違い合いながら、それでも互いに近づいていくものなんだ」
「認識の事なるすれ違いは相互理解など生みは致しませんがね」
「大丈夫だ。俺はもう十二分にお前の事を理解している。お前だってそれは同じだろう?」
「はい。旦那s魔の事は旦那様以上に理解しているという自負が御座います」
「なら何も問題ないじゃないか。むしろ俺達は相思相愛?」
「――違います」
「ぇ?」
「……、それは異なります、と申し上げました。旦那様」
「んな寂しい事、照れ隠しでも言うものじゃないぞ?」
「私は、旦那様よりも深く旦那様の事を理解している、と申し上げているまでの事に御座いましょう」
「それこそ意味が分からないな。俺がお前の事を大切に思っていないとでも?」
「“大切に”、ですか。……そのような事は微塵たりとも申してなどおりません。仮にそうだったとしても、私自身のこの気持に嘘偽り一片の揺らぎたりとも生じる事は御座いませんが」
「なら一体何が不満なんだよ?」
「正直に申し上げるとすれば旦那様自体にですが?」
「どうしようもないじゃないかっ!?」
「そうですね。……如何いたしましょうか、旦那様?」
「う〜む、そうだな……俺に惚れろ!」
「もう惚れておりますが。……ぽっ」
「そ、そうか。なら、もっと俺に惚れるんだ!!」
「既に限界値を超えて惚れ込んでおります。……この様な恥ずかしい事を何度も言わせるとは旦那様もお好きですね?」
「ふっ、そうでもない」
「断じて褒めてはおりません」
「あれ、そうなの?」
「はい。むしろ私に謝罪してくださいます様、旦那様。私の純情をお返しくださいませ」
「純情? 誰が、てか何が?」
「この場には私以外には旦那様しか存在しませんが」
「成程、つまり俺が純情だと言いたいわけか。ふっ、俺をそんなネンネなお子様だと思ってると、痛い目見るぜ?」
「そうですね。少々なりとも痛い目を見てもらい、一度完全に目を覚まさせた方が良いのかもしれないと、最近は大変頻繁に考えます」
「愛されてるな、俺っ!!」
「そうで御座いますね?」
「所で深刻な悩みだったら俺が相談に乗るぞ?」
「はて、悩みとは一体何の事でしょうか?」
「そりゃお前、意味ありげにため息ついてただろう? どれ、俺が慰めてやろう」
「今は御遠慮させて頂きたく。そのような気分にはなれませんので」
「むっ!? 何やら本当に深刻そうな悩みの予感!!」
「実は、旦那様の手紙をどのように捏造しようかと、思案しておりまして」
「……ねつ造?」
「はい、捏造で御座います」
「何の為に、と言うよりも誰に出すんだ、その手紙」
「シルファ様、ハカポゥ様、トトル様にチョイク様、サイサ様とポールィ様、それから……」
「成程、誰に出してるのかは判った。それなら心配いらない。ちゃんと俺本人が書こう。そうだよな、ちゃんと連絡は小まめにとって、愛の語らいの時間は持たないと。――俺のお嬢さんたちを悲しませるわけにはいかないからな」
「それで旦那様、絶縁状にはどのような内容を記せば良いでしょうか?」
「愛してる、と書いてくれ」
「では、『愛してる』と。『だが俺の愛は君一人のものじゃないから、君は君の幸せを見つけてくれ。君は俺の事を忘れてもいいけど、俺は一生君の事は忘れない』と。このような内容で宜しかったでしょうか?」
「何かそれじゃ、もう二度と会わないみたいな意味に取られるかもしれないなっ」
「何も問題は御座いません。誤解はなされぬようにと表に正しく『絶縁状』と記しておきましたので」
「そうか、ならいいか」
「はい。これですべてが解決ですね?」
「そうだな。……いや、そうなのか?」
「何も疑問に思う必要は御座いません。この手紙さえ届けてしまえば問題はすべて解決するのです」
「……、む?」
「如何なされましたか、旦那様?」
「――そうだな、うん。やっぱり他人任せにするのは俺のお嬢さんたちに失礼だから、俺が自分で綴る事にする。悪かったな、せっかくお前にこんな気苦労をさせたって言うのに」
「いえ、そんな事は微塵も御座いません」
「なら、よかった」
「……しくじりました」
「ん? いま何か――」
「いえ、大したことは申し上げておりませんので、お気になさらず。精々『旦那様の悪手から世界中のお嬢様方をお助けする』計画の一部が失敗してしまっただけですので」
「そうか、ならいいか」
「良いのですか?」
「良いんじゃないのか?」
「そう、で御座いますね」
「ああ、俺がいいって言うんだから、きっとそれでいいんだよ」
「……――だから、旦那様は馬鹿だというのです。バカ、ばか、旦那様の……おおばか」
らんだむぱたーん
為にならないメイドさんの話
「馬鹿は死ななきゃ直らないとの言葉がありますが、あれは嘘ですね。馬鹿は死んでも治らない、生まれつきの心の病の様なものですので」