ど-261. 揺さ振り
力尽きた
「運命と言うモノを信じるか?」
「信じません」
「……そうか」
「はい、旦那様。仮に運命と言うモノがあるのだとすれば、それは誰が決めているのでしょうね? 神、それともヒトの背負う業そのもの?」
「そりゃ、世界だな。世界が運命を決めて、俺達はそれに倣って生きている」
「――だとすれば世界を壊すのも吝かではない、ですね?」
「おいおい、何を物騒な事を言ってるんだよ」
「……申し訳ございませんでした。“今の”旦那様には言っても詮無い事で御座いました」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味に御座います、旦那様。世界を愛すると言う事は世界を憎むという事と同じである――故に旦那様はこの世界全てを愛しんでおられる」
「……ん〜、その言い方だと何か、俺が世界の全部を憎んでいるように聞こえるな」
「旦那様がそう取られるのであれば、その通りかと」
「別にお前と問答をする気はないんだけどな」
「私も旦那様如きと問答をしようなど、そのような時間の浪費以外何物でもない腐りきった行いは致しませんとも」
「そうか?」
「えぇ、はい。旦那様」
「ってか、こんな湿っぽそうな話題よりももっと楽しい事を話そうぜ、二人の将来とかさっ」
「これが湿っぽい、と言う事は覚えておられるのですね、今の旦那様は」
「……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味で御座います旦那様」
「覚えてるとか、意味分からねぇし」
「そうですか、それは大変よう御座いましたね、旦那様?」
「良い事なのか、それって?」
「取りようによっては、旦那様にとって幸いな事かと」
「お前が言うからにはそうなんだろうな、たぶん」
「それにしても旦那様? 先ほどから、私に訊ねてばかりですね」
「ああ、言われてみれば。なんでかな?」
「私が敢えてそのような話題を選んでいるからですが」
「そのような、ってどんなだよ一体」
「――さて?」
「肝心な所でそうやってはぐらかす」
「言っても詮無い事ですので。それに何より、旦那様は初めから知っておられるでは御座いませんか」
「……益々意味分からん」
「そう言う意味では、今の旦那様は心穏やかでいられる……さながら女神の贈り物、と言ったところなのでしょうね」
「女神、ねぇ。お前がそういう話題を出すってのも珍しいな」
「いえ。……ねえ、旦那様?」
「なんだ?」
「私、運命と言う言葉は嫌いです。仮にそんなモノが存在するのならアルの事さえ――……。ですので、そのような言葉はもうお使いにならないで下さいね?」
「あ、あぁ、解った。お前が嫌っていうのなら止めるよ。でもな?」
「……何でございましょうか?」
「俺はお前たちに出逢えたこと、それもひとつの運命かな、って思ったりもするんだ。あとはただ、俺の力不足なだけで」
「旦那様、それは、」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
「……はい、了承いたします、旦那様」
「悪いな、俺から言い出した事なのに」
「いえ。旦那様が悪いのは世界共通の事割であり初めから決まっている事では御座いませんかそれを何を今更謝罪される必要が御座いますでしょうか。仮に謝罪されるつもりであられるのでしたら、こうして存在していること自体を謝罪なされたらいかがですか?」
「お前って表情がほとんど動かないから、時々お前の冗談と本気が分からなくなるなっ!」
「……――そうで御座いますね、旦那様?」
色々と、力尽きました。
為にならないメイドさんの話。
「運命ならば打ち壊す、宿命ならば衝き徹す、必然ならば――握り潰す。……それでこそ旦那様かと」




