ど-259. 温かいというコト
膝枕は良いものです
「ん、――あぁ」
「旦那様、お目覚めになられましたか?」
「ひざ、枕?」
「はい」
「……なん最近、こういう事が多いよな」
「そうでしょうか?」
「ああ。ったく、俺もみっともないというか、焼きが回ったというか。……情けねぇ」
「私はそうは思いませんが」
「そうか?」
「はい。情けない旦那様など、いつもの事では御座いませんか。それを何を今更、仰られる事が御座いますか?」
「それもそうか、と言うよりもお前が言うのならそうなのか」
「はい。情けなくない旦那様など、普通の旦那様ではないのです」
「それはそれでどうかと思うのだが?」
「そうでしょうか。それはそれで旦那様らしくてよろしいかと」
「……まあ、俺にもそんなちょっぴり母性をくすぐる一面もあるという事だなっ」
「ご自身で仰るのは如何なものかと」
「……んっ。それにしても温かいな」
「本日はお触りはなさらないのですね?」
「そう言う気分じゃないからな」
「つまり私には旦那様にとって劣情を抱くにも値しないという事でしょうか」
「そう言う訳じゃない。何か……何かを思い出してた気がするんだ」
「何か、とは?」
「さあ? 夢見てたような気もするし、単に昔の記憶を思い出してただけの様な気もする。でも、何を考えてたのかは忘れちまったよ」
「……そうですか」
「ああ。……悪いな」
「いえ、旦那様が謝られる事はありません。それに、旦那様が悪いという訳では――……、やはり旦那様が悪いです」
「そうだよな。やっぱり何かと俺が到らない所為なんだよな」
「その通りです」
「んん、あー……俺、何をしてたんだっけ?」
「旦那様は……突然倒れられまして。尋ねるのが遅くなりましたが、お身体の方だ大丈夫でしょうか、旦那様?」
「ああ、身体の方は全く問題ない。けど、少し頭が重いな。何かが頭の中でぐるぐる回ってる感じだ」
「そうですか」
「……なあ?」
「はい、何で御座いましょう、旦那様?」
「俺さ、何か大切な事を思い出してたような気がするんだ」
「大切な事とは?」
「思い出せない。でも何か、忘れちゃダメな事だった気がする」
「ならば旦那様、思い出されればよろしいだけでは御座いませんか?」
「それが出来れば苦労はしない。つか、深く考えようとすると気だるくて何もする気が起きなくなってくる。参った」
「……――全く、情けない。それでも旦那様は旦那様なのですか?」
「俺がお前の旦那様じゃなかったら、他の誰がお前の旦那様なんだ?」
「いえ、そうですね。私の旦那様は未来永劫幾度時空を繰り返そうとも旦那様お一人であり、それ以外にはおりません。ですが、そのようなコトではありません、旦那様」
「なら、どういう事なんだ?」
「旦那様が出来ないというのであれば――無理を押しとおしてでもなさればよろしいだけではありませんか?」
「無茶言うなぁ、てか、自分で矛盾したこと言ってるって分かってるか?」
「旦那様の存在自体が矛盾したものであるが故に、然したる問題ではないでしょう」
「それもそう、か」
「可能であればなされば良い。不可能であっても、成せば良い。そうでは御座いませんか――私の、旦那様?」
「――そう、だな。そうだったな。出来ないのであればすればいい。たった、それだけの事なんだよな」
「はい、その通りに御座いましょう?」
「思い出す。何が何でも、忘れた事を。……――手遅れになる前に、絶対に」
「……手遅れ、とは?」
「ん、さあ? 何となく、そう思っただけだ」
「そうですか。ですが『手遅れ』、ですか。……何かしら、注意しておくにこしたことない、と言う事ですか」
胸がない。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「私はまだまだ成長期――……だったんだよ?」
「……よし、勝ちました」