ど-258. 冷たいというコト
氷とかの意味の、冷たいじゃないです
「私は常々“今”の旦那様に対して申し上げたい事が一つ御座いました」
「何だ、どうした、言ってみろ。俺に出来る事ならちゃんと叶えてやるから」
「……無理で御座いましょうね」
「無理かどうかは聞いてから決める。そして決めたなら無理でも押し通す」
「はい、旦那様。旦那様は昔から……それだけは今もかつても変わらずにおられましたね」
「ああ、そうだ。……んで、言いたい事っていうのは?」
「はい。旦那様は――酷く、冷たくなられました。その旦那様が私は正直、あまり好きにはなれません」
「どういう意味だ? 今の俺は前の俺と違って慈愛と寛容、そして何より素敵さにあふれているはずだが。気配りだって前よりも出来ている自信があるぞ?」
「……旦那様の仰られる通りかと」
「なら何を以てお前は俺の事を“冷たくなった”なんて評するんだ?」
「目で御座いますす。旦那様の目、それが一番の理由でしょうか」
「目、って目つきが悪くなったとかか?」
「いえ、そのような表面的な事では御座いません。表面な事を申し上げればそれは切りはないほど旦那様は奇怪でおられますので、それを今更何を弄ろうとも大差は御座いません」
「ふっ、俺の内から滲み出てくる魅力が怖いぜ」
「そうで御座いますね?」
「っと。もしかしこういう直接的な言い方はお気に召さないのか?」
「いえ、それは問題では御座いません。何よりも旦那様の発言が日々おかしな迷走を続けている事は気にする必要もない真理に御座います故に」
「そうか、よかった……と、ならお前は俺の何が、ってすると雰囲気とか、そう言うモノが以前とは違っててっちょっぴり近寄りがたいな、とかか? それなら遠慮する必要は全然ないだぞ」
「旦那様はかつて一度でも、私が旦那様に対して遠慮をしていると感じられた事は御座いますか?」
「ん……ないな」
「ではその通りに御座います。旦那様に対しての遠慮など、それを旦那様が望まれておられない以上は無礼非礼ならびに旦那様の存在並の勘違いと自己満足ではありませんか」
「そうだな、確かに俺はそんな事望んでない。……って、俺が望ん、で? ちょっと待て、何かおかしな気がする」
「……旦那様?」
「いや待てちょっと待って。……なあ、お前は俺の目を見て、“冷たくなった”って感じたんだよな?」
「はい。その通りで御座います、旦那様。今の旦那様は……えぇ、ひどく――酷く冷たい眼をされておいでです」
「冷たい? 俺が?」
「はい」
「どうして……、俺は世界のお嬢さん全てに、皆に優しくしようとして、ただそれだけで――……」
「……」
「いや違うだろ、それは。だって、ほら……」
「――旦那様は、覚えておられるでしょうか?」
「……何をだ?」
「全てを愛し全てを慈しむのは、総てを憎み総てを呪うのと何ら変わりがないという事を。旦那様はお忘れですか?」
「忘れ……俺、が?」
「はい」
「言われてみれば、そんな事を言ったような気がしないでも……ない、のか?」
「はい、確かに旦那様が仰られた言葉で御座います」
「いや、でも……」
「“だから世界の全てを救おうとするのではなく、両手に溢れんばかりの人々の幸福を願い求める”と、そうも仰られましたね? 私はこのお言葉は大変好んでおりましたので、旦那様が忘れられたとすれば、それは大変悲しい事に御座いましょう」
「……」
「旦那様? 顔色た少々優れないようなのですが、大丈夫ですか?」
「あぁ、そういえば、そう、だった……な。俺はそんな事も――」
「――旦那様っ!?」
「…………っ、ぅぅ」
「……――これが、覚醒め、そして何かを失ったというのであれば、あの時聞こえた『覚醒』とは果たして、一体何の事なのでしょうか?」
何処目指して書いてるんだろ、と思ったり思わなかったり。でもどこも目指してないなと思いなおしました。
ただ単純に、日常の風景が淡々と続いていけばそれでいいかな、と。ですので今後も過度な期待は諦めて下さいませ。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「大切な事はわたし、絶対に……忘れないよ」
「昨日の食事はパン一つでした!!」