ど-257. 手のひらの幸せ
抱え切れるほどの、小さく大きな幸せを
「さあ、幸せを思い描いてみよう」
「……」
「今、お前が思っていたそれがお前の幸せだ」
「……、はい、確かに。旦那様の仰られる通りで御座いますね」
「で、一体何が見えた? 俺がお前の幸せ、叶えてやろう」
「そう大層なものなど見えてはおりませんよ。何より、私の幸せなどほんの些細なものですから」
「幸せなんて、本当は皆が大したものじゃないって思ってるものばかりだよ」
「……旦那様。はい、そうで御座いますね」
「っと、しんみりした空気は良いから、それでお前は何が幸せだと思ったんだ? この素敵満点な俺が叶えてやろう」
「まあ旦那様、いつの間にか素敵が満点になられたのですね。おめでとうございます」
「いや、それほどのことでもないけどなっ。てか、俺にとってはむしろ当然の結果?」
「それもそうですか。……とは申しましても、全てが旦那様の自称ですが」
「いいんだよ。俺の素敵さを真の意味で理解できる奴なんて俺と同じくらい素敵な奴じゃないと無理な話だから」
「つまりこの世には存在しないという事ですか」
「そうとも言う」
「この世に旦那様の素敵さ? とやらを理解できるものがただの一人もいないというのであればそれは旦那様の己惚れと同じ意味合いなのでは御座いませんか?」
「違うな。云わば『俺様素敵♪』は世界中の共通認識であって、その更なる上の素敵さを理解できる奴がなかなかいないと、ただそれだけの話だ」
「わーだんなさますてきですー」
「そうだろう、そうだろうとも。――当然だっ!」
「……コレで自称素敵に付け加えて実際に無敵などでなければ、非常に扱いやすくて助かるのですが」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、意味のある事は何も」
「そうか。んで、話を戻すけど、」
「戻さなくても結構です」
「そう言うなって。それで話を戻すが、」
「ですから戻す必要は御座いません」
「だから、お前もしつこいな」
「旦那様の方こそ、少々しつこいのでは御座いませんか? それとも、それほどまでに話を戻したいのですか?」
「ああ、戻したいね、つか戻すけど、お前の幸――」
「必要ない、と申し上げております」
「……そこまで嫌なのか?」
「嫌です、と申し上げれば旦那様は素直に引き下がって頂けますか?」
「ん……まぁ、お前がどうしてもいやと言うのなら仕方ないよな。嫌よ嫌よも好きのうちって言葉は確かに世の中にはあるのだが、」
「そのような戯言、旦那様が存在しているという常識を疑いますね?」
「ああ、俺もそう思う。何と言っても俺がこうしてここにいる事自体がある種の奇跡みたいなモノだからな」
「……それは、言い得て妙な物言いかと」
「だろ? 言ってて俺も少しそう思った」
「では改めまして旦那様に申し上げさせていただきます。――旦那様が嫌です」
「……、嫌よ嫌よも好きの内――」
「そうで御座いますね?」
「まあ、そこまで嫌がるんならこの話題はこのくらいにしておくとしよう」
「はい、ではそうしてくださいませ」
「ん〜。じゃあ他にはだな、」
「……嫌、と言うよりも恥ずかしいと申し上げるべきなのでしょうね、この気持は。今のままで私は充分に幸せである、などと」
最近、何となくまた流れが気に入らなかったり。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「……はぁぁ、ゆううつ〜」
「女神様は偉大なのです!!」