ど-256. 一発は、何をどうしても一発
一発ヤらせろと言われて、頷いちゃったらそれはもう命がないのと同じなのです、と言う意味。
「だ、旦那様っ!!」
「!! そんなに慌ててどうした、何かあったのか!?」
「は、はい旦那様」
「俺に任せておけ。全部上手くやってみせるさっ。……それで、一体何があったんだ?」
「はい、旦那様。実は、」
「……ああ、実は?」
「最近、旦那様を叩いていない事に気がつきまして」
「うん、それで?」
「腕が疼くのです。旦那様を殴れ、吹き飛ばせ、と」
「――うん、病気だな。ちょっと診てやるから服を、上半身だけでいいから脱いでくれ。状態を診る」
「殴ってもよろしいでしょうか旦那様?」
「駄目だ。つか微妙に睨んでるけど……あぁ、大丈夫だ。胸を見せるのが恥ずかしいなんてそんなの、今更だろ?」
「……――何が、今更だと仰るのでしょうか?」
「ん? だってそりゃ、お前……」
「まあ旦那様に見せるのであれば些かの衒いもないのですが」
「そうだろ?」
「ですが、旦那様?」
「なんだ?」
「……責任は、とってくださいね?」
「ああ、そんな当然のこと、言葉にする必要もないな」
「それでも、言葉にしてほしいものと言うのは存在するのですよ、旦那様?」
「……あぁ、そうか。不安なんだね? それは済まなかった。――大丈夫、お前の全ては俺のモノだ。他の誰にも、渡しはしない」
「――」
「さて、と。これで不安は晴れてくれたかな?」
「――……はい。十分、晴れまして御座います」
「そうかそうか。それじゃ、腕の疼きは収まったか?」
「はい、収まりました、と言いますかそのようなモノは最初から雰囲気を盛り上げるための戯言ではありますが……そうですね、旦那様にはやはり少々、お仕置きが必要かと」
「お仕置き? 存在するだけで世のお嬢さん全てを魅了してしまう俺は確かに罪作りな男ではあるが、それは仕方ない事なんだ。俺が俺である以上避けられない宿命のようなものだからなっ」
「そうですか。では遠慮は要りませんね?」
「……ふむ、仕方がない。お前にそこまで迫られたのなら、男として俺は潔く諦めるべきだろうな。あれこれ言い繕うのはただ見っとも無いだけだからな」
「もの分かりが大変よろしく、今の旦那様はその点のみは認めなくも御座います。ですので、やはり認めませんが」
「さあ来いっ。お前の愛の形を俺の全身全霊をもって受け止めてやろうっ!!」
「……」
「どうした? 来ないのか?」
「……では、本当に遠慮なく。――全力で」
「応っ、そしてそれを受け止めてこそ男と言うモノ! ――来いっ」
「――もう往きました」
「ぇ……? ――なあぁぁ……」
「……久々に、本当の全力で拳を揮いましたが、大丈夫でしょう。それに、旦那様がイケナイのです。あのような事を、……軽々しく仰られるから」
照れ隠し……などと言う可愛げのあるものでは決してない。
一発で世界を壊せるほどの力を持ってたとしても、同じ一発なのですよ、と言う意味。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「ふぁいとー、いっぱーつ、おー! ……で、良いのかな?」
「――ふっ、だからアルーシアはまだまだお子様なのです。“一発”と言って思いつく事と言えばっ……うふふふふ」