ど-255. ツンと、でれ?
演技ですから
「あ、あなたの為なんかじゃないんだからねっ!」
「……それで旦那様は何をなされておいでなのでしょうか?」
「んっ、絶賛、恋の駆け引きの勉強中だ」
「そうですか。それは無駄な尽力、真に御苦労さまに御座います、旦那様」
「いや、それほど苦労ってわけでもないけどなっ。それにこういう事をするのは当り前だろ。全てのお嬢さんの味方たる俺は、いつ困ってるお嬢さんが目の前に現れても対処できるようにしておく必要があるからな」
「そうで御座いますね? それと先ほど旦那様がなさっていた奇怪極まりない行動とは何の関連性も御座いませんが」
「そんな事はないだろ。あれは本心を偽ったふりをして相手の気を惹こうって言う、言わば高等テクニックの一つだぞ?」
「単に素直になれないだけでは?」
「そうともいう」
「第一、旦那様があのような事をされても、ただでさえ化膿し切っている頭が更におかしくなったのかと疑われるだけです。無駄です。……それに先ほどのはこのよう行うのが適当かと――こほんっ」
「ん?」
「……はい、これっ!」
「いきなり怒鳴って、どうした?」
「……そんなのはどうでもいいのっ。それよりもこれっ、はい!」
「んん?」
「早く受け取りなさいよっ」
「状況が良く分からんが、まあ分かった。んで、これ何だ?」
「そんなの、開けてみれば解るでしょ。――ばっかじゃないの?」
「それもそうか。んじゃ、御開帳、っと。……ふむ、クッキーか」
「これは、その、ちょっと食べたくなって作ったら造り過ぎちゃって……だからっ、別にあんたの為に作ったんじゃないんだからねっ!」
「ん、そうなのか。まあくれるって言うならありがたく貰っておくとするさ」
「……そ、そうよっ。あんたはありがた〜く、私からの施しを受け取っておけばいいのよっ」
「時間もちょうどおやつ時だしな。ちょうどいいからティータイムにでもするか」
「――、はい。そういたしましょう、旦那様。少々お待ち下さいませ、ただいまお茶をご用意いたしますので」
「ああ、分かった。……で?」
「如何でしたか、旦那様?」
「如何と言われても、結局のところお前は何をしたかったんだ?」
「さて? 私にも、コレのどこが宜しいのか然して理解しておりませんので」
「んー、……ま、良いか。それよりもお茶だ、お茶。折角お前が俺の為に愛情いっぱい込めて作ってくれたものだからな、ちゃんと美味しく食べないと」
「ありがとう御座います」
「って、礼を言うとすれば作ってもらった俺の方だろ?」
「……そうでございますね。では地面にひれ伏し這いつくばって、ご苦労だったと労いのお言葉を頂けるのであれば、嬉しいです」
「ん、ありがとな」
「いえ、そのお言葉だけで……私は十分に御座います」
メイドさんは少し照れております、そして嬉しがっております。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「わたしを……じょーおーさまと呼ぶのです、れむ!!」
「……別にあなたの為じゃないんだからね、って言ったら『あ、そう』って納得されました。何故でしょうか?」