ど-247. 気がつけば二人きり
転移魔法で飛ばされて、
……どきどきですか?
「見渡す限り木、木、木。ヒトの気配もなければ動物の息遣いも聞こえない。正に二人きりと言い表すのが一番だな」
「はい、そうで御座いますね、旦那様。ランダムジャンプで着いたのがこの樹海だったのですが、結果として、ようやく二人きりになれましたね?」
「……ふむ」
「旦那様?」
「では聞こう」
「はい、なんなりと」
「こんな場所に連れ込んで俺で何をするつもりだっ!?」
「……旦那様は何をしてほしいでしょうか?」
「ふっ、この俺と甘い蜜月を過ごしたいという訳か。――良いだろう、望み通り」
「――ふむ、今日は私の拳が唸って叫んでおりますね。血を吸わせろ〜、血を吸わせろ〜……は、流石に冗談ですが。それで旦那様? 申し訳ございませんがただ今の言葉をもう一度仰っては下さいませんか? 大変遺憾な事ながら私、旦那様のお言葉を聞き逃してしまった様ですので」
「聞き逃したのか、なら仕方ない。もう一度言うけどな、そんなに俺と甘いヒト時を過ごしたいというのであれば遠慮せずに言って、」
「逝きますか?」
「行くって、いやそうじゃなくて、遠慮せずに言ってくれていいんだぞって話。俺はいつでも準備オッケーだから」
「では旦那様が逝きますか?」
「……ん? 何か微妙にニュアンスが違う気がしてきたんだが」
「では旦那様、参りましょうか」
「参るって、どこにだ?」
「地獄……ではなくて、少々旦那様と訪ねたい地があるのですが、宜しいでしょうか?」
「成程。俺をその場所で口説き落とすつもりなのか。いいだろう、受けてたってやる。ただしっ、口説き落とすのはこの俺の方だがなっ!」
「――えぇ、楽しみにお待ちしております、旦那様?」
「む? いつもと歯ごたえが違うな。何か心境の変化でもあったのか?」
「……いえ、心境の変化と言うほどのものでは御座いませんが。そうですね、敢えて申し上げるのであれば、少々、自分でも抑えるのが難しいほどに気が高ぶっております」
「さっき言ってた拳が血を吸わせろ〜とか言う奴か? し、仕方ないな。俺の血でいいのなら吸わせても――」
「いえ、そう言う事では御座いません」
「そうなのか」
「旦那様は心無し残念そうです」
「そんな事はない。むしろ安心しているぞ」
「旦那様は殴られて悦ばれるお方ですからね?」
「お嬢さん限定だけどなっ!」
「……そのように認められてしまうのも、何やら複雑な気持ちではありますが」
「出来れば込めてる愛は大きい方がいいぞ」
「愛がこもっている事は既に確定事項なのですか」
「当然だ。と言うよりも俺を求めないお嬢さんはこの世にはいない。あるとすれば求める程度の違いくらいだからなっ」
「……それを、言い切られますか」
「真理だろう?」
「そうで御座いますね。少なくとも“今”の旦那様の中では――……いえ、と言う事はもしや今旦那様がおっしゃられた、聞くのも言うのもおぞましいコトがこの世全ての真理となりうる可能性も……?」
「――怖がる事はないよ?」
「……怖い痛いのは最初だけ、とはよく言いますからね」
「そう言う事だ。まあそれはそれとして、なら気が高ぶっているってのはどういう意味、あぁ成程」
「何がなるほどなのでしょうか、旦那様?」
「アレか、発情期か」
「違います」
「違うのか?」
「断じて……と言う程では御座いませんが、違います。決して、発情期では御座いません」
「ならなんだ? ほら、身体が熱いんだろう? 疼くんだろう? 俺を求めて止まないんだろう?」
「そのような事は一切申し上げておりません」
「大丈夫だ。何も言わなくても……んー、俺の勘? がすべて理解してるから」
「それは理解とは言いません。妄想と言うので覚えておいてくださいます様、旦那様」
「理解と妄想って違う意味なのか?」
「では逆に訊ねますが、旦那様におかれましては理解と妄想は同じ意味なのでしょうか?」
「同じだな。少なくとも一括りではある。理解なくして妄想はないからな。ちなみに妄想なくして理解もないぞ?」
「……そうなのですか。では旦那様に妄想していただくよう、お願いいたします。――早く目を冷ませ♪」
「どういう意味だ? 俺はちゃんとこうして起きてるぞ?」
「はい、そうですね。ですから私はきちんと妄想してください、と申し上げさせていただきました」
「良く意味が分からないんだが……」
「意味がご理解いただけないと言うのであれば致し方御座いません。旦那様は所詮旦那様であると言う事で、綺麗にお忘れ下さいませ」
「何だか侮られている気がする」
「侮って、はおりません。心底呆れると同時に馬鹿にしてはおりますが」
「なんだ、それならいいか。いつの世も素敵で完璧なこの俺への嫉妬心って言うのは有って仕方のない事だからな。それを受け止めるのもまた、俺の度量って奴だ」
「そうですか。では時間も惜しいので参りましょうか、旦那様」
「ん? ああ、確かに時間は一刻でもおしいしな。分かった、向かうとしよう……んで、どこに行く気だ?」
「はい。少々――レムールまで」
「ん、分かった」
もうちょっと、いやあと五十倍ほど? 勢いがほしいなぁ、と思ったり思わなかったり。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「レムと二人で森林浴……いいなぁ」
「そこです今です押し倒すのですっ!!」