ど-242. 勝負ですか?
決闘です
「で、どうやって勝負をつけようか?」
「何も考えておられなかったので? 流石は旦那様で御座いますね、伊達に色惚けしてはおられません」
「ふっ、任せろ」
「一切褒めてなど居りませんので、威張り腐らない様お願いいたします」
「大丈夫だ。それくらい把握している」
「そうですか。ならば全くよろしくないのですが。勝負と言うからにはやはり力ずくでしょうか?」
「……お前、本気で俺に勝てるとでも?」
「今の旦那様であれば楽勝かと思われますが?」
「ふふっ、どうやら俺も甘く見られたものだなっ!」
「旦那様は常に劇甘で御座いましょうね、特に女性の方々に対して」
「おぅ、こいつは一本取られたなっ!」
「では勝負は私の勝利と言う事で宜しいですね?」
「宜しくない。高々上手い事一つ言ったくらいで負けを認めて堪るかっ。この俺の双肩には世界中のお嬢さんの希望と未来が待ってるんだぞ?」
「呆れと嘆息の間違いでは?」
「そうとも言う」
「……そうとも言うのですか」
「当然だ。てか、それは良いとしてだ。あれしきの事で俺が負けたと思うなよっ!?」
「あれしき、とはどのような事でしょうか。私にはトンと記憶にないのですが?」
「……それが勝者の余裕と言う奴か。ふっ、だがお前はそうして余裕の上に胡坐でもかいていればいいさ。気がつけば俺の勝利は間違いなくなってるだろうがな、くくくっ」
「お一人で盛り上がられているところ申し訳ないのですが、……本当に何の事ですか?」
「――ほ、本気で忘れているだとっ!?」
「ええ、と言うよりさっぱりですが」
「成程。あれくらいは覚えておく必要もない、と言う事か。さすがは俺に勝負を挑むだけの事はあるな。いいだろう、それでこそこの俺と勝負をする価値があるってモノだ」
「私はこうして旦那様と対面しておりますと程好い具合にどうでもよくなって参りましたが。……やはり本質的には旦那様は旦那様である、と言う事が深く実感できますので」
「それは気の抜けた状態でも俺に勝てるという自信の表れと取っていいんだな、いい度胸だっ!」
「……それで、勝負の方法は如何いたしましょうか?」
「そうだな、……くくくっ、俺に勝負の方法を任せた事を悔いるが良い」
「いえ、所詮は旦那様が考えられる程度の事ですので、万が一に気に病むとしてもそれは取り越し苦労かと」
「ふっ、そこまで言うなら、あぁ分かった、分かったさっ」
「御託は宜しいので、勝負の方法は? それとも旦那様が決められないと仰られるのでしたら私が決定いたしましょうか。……たとえば実力行使などはいかがでしょうかね?」
「いや、何でもかんでも暴力で解決するってのは良くない。俺の信条は世界に愛と平和を、だからな」
「それは結構な事で。それで旦那様、結局は何を以てして私と旦那様の白黒をつけましょうか?」
「お前が“白黒つける”とは上手い事言うな」
「いえ、そんな事はどうでもよいのですが」
「そうだな、と言う訳で勝負の内容だが、ズバリ――お前を口説き落としてやるぜっ!!」
「……」
「そして俺に文句の言い様もないくらいに惚れさせて従順にさせる。どうだこの完璧な方法はっ」
「……はあ」
「ふふっ、そうか、怖いのか。けど心配しなくても大丈夫だ。俺はすべてのお嬢さんに対して平等に愛は注ぐからな。――大丈夫、必ず幸せにして見せるよ?」
「……いえ、別段私はそのような事を心配など、一塵たりともしてはおりませんが、何と申し上げればよろしいのか、私としてはその方法はむしろ望むところではあるのですが……しかし本当にそのような勝負方法でよろしいので?」
「当然だっ、暴力的でもなく、愛と平和に満ちてる、これ以上の勝負をつける方法があるか?」
「まぁ、旦那様がそれで良いと仰られるのでしたら。……此処まで結果の分かり切った勝負は、余り好きではないのですが」
「結果の分かり切っただと? それはまた随分な自信の表れだな?」
「ええ、そうで御座いますね。事この勝負内容でしたら、私が負けるという事は可能性を論じる事すら必要御座いませんから」
「ふふっ、いい度胸だ。なら――覚悟しろっ」
「……――覚悟など既にできておりますとも。覚悟なされるのは、旦那様の方ですよ?」
そして最初に戻ろう。
とあるお嬢さんの寝言一句(+アルーシアの溜息)
「……れむのばかぁぁ、鈍感〜!」
「本当に馬鹿ですね、あのヒト。こんな分かり切っている勝負、しょうぶぅ〜」