ど-238. 向かった先はとある貴族の館
攻略対象……じゃ、ない?
「お前は間違っている!」
「……、ふぅ。暖かくなってくるとこのような阿呆が湧いて出てきて困りますわ」
「だが俺に全てを委ねて任せれば万事上手くいくこと間違いなし! いまなら俺の愛もついてちょっとお得?」
「――誰か、居ないの? この阿呆な侵入者を即刻捕らえなさい。……全く、私の部屋までこのような輩の侵入を許すなど、職務怠慢にも程がありますわっ」
「ふっ、侵入のスキルで俺に勝てる奴なんてよっぽど影の薄い奴くらいのモノだぞ?」
「つまり貴方は影が薄い、と言う事で合ってますのね?」
「いや、違う。俺は眩いばかりに輝いてるからヒトは我先にと視線を逸らすんだ。……そう、それはむしろ俺が素敵すぎるが故の、罪っ。あぁ、なんて罪深いんだろうね、俺と言う存在は」
「……なるほど。そうして侵入者としては余りにも堂々としてた所為で、逆に捕らえ難かったという事ですのね。納得がいきました」
「と、言う訳で最初の言葉に戻るわけだが。――お前は間違っている!」
「聞いていれば、面白い事を言う阿呆ですのね。いいでしょう、衛兵が来るまでの暇つぶしに付き合って差し上げます。……それで、私のどこが間違っていると仰っているのです?」
「それはズバリ――侍女のツェイクに始まって三丁目のパン屋のモモン、教会の向かいの家のライチに……」
「ちょちょちょ、ちょっとお待ちなさいっ!!!!」
「……何だ?」
「どどど、どうして貴方がその事を知っていますの!?」
「ふっ、俺に不可能はない。具体的に言えば香りかな。後は直感と俺を見る時の目。……ついでにチェイカの証言と」
「チェイカ? ……そう、なるほどね。やはりあの娘から事が洩れてましたのね」
「いや、そっちの情報提供はあくまでついでだ。に、してもたかが睦み事を見られたくらいで拉致しようとするのは感心しないぞ? 複数同時に手を出す、って言うのはむしろお前の度量を見せてみろ、って感じだけど」
「たかがなどと言わないで下さいますっ!? あ、貴方に……男如きにそのような事を知られたとあっては――生かして帰す訳にはいかなくなりましたわね」
「ふっ、ならどうすると?」
「随分と挑発的な阿呆です事。当然、とらえて即刻、首を刎ねます。私の部屋まで侵入してきたのです、むしろこの私を肉眼で拝めたことに感謝して死になさい」
「それは困るな。第一ここはまだ俺の死に場所じゃない」
「貴方がどう思おうが私の知った事じゃありませんわ。……そ、それにしても衛兵の方々はいつまでかかっているのかしら」
「そうだなぁ。確かにちょっと遅いなー」
「あっ、貴方、さては何かしましたわねっ!?」
「――ふっ」
「ひ、 卑劣な!!」
「いや、と言うより俺は何もしてないし。ここは意味深に笑った方が格好がつくかな、と思った程度だ」
「ならどうして衛兵の方々は――そうでなくとも誰一人として来ませんのっ!?」
「多分、皆が俺たちの邪魔をしないように気を遣ってるんじゃないかな?」
「気を、って何を仰って……ひっ!? そ、それ以上私に近づかないで下さる!? そ、それ以上近づくとそのあのえっと、兎に角酷いですわよ!!」
「そう言われて止まるほど俺はお人好し……だな、うん。素敵なお嬢さんの頼みとあっては聞かないわけにはいかないだろ」
「……ほっ。相手が阿呆で助かりましたわ」
「仕方ない。俺が近づけない以上、君に近づいてきてもらう事にしよう」
「――何を仰っていますの? そのような事、私がするとでも思ってらし、」
「此処に来る途中でこんなものを拾った」
「?!?!?! 私の下――」
「おお、結構伸びる」
「っっっ!! 広げるな、この馬鹿っ」
「そう言われてもな。おう、縦にも伸びるな」
「っ、い、今すぐ返しなさ――」
「と、言うのは幻覚で作ったフェイクだ。実際はただの雑草ね。……はい、いらっしゃい、お嬢さん。そして捕まえた、と」
「……ぁ」
「お嬢さんが何を見てたのかは反応と言葉で想像がついたが……この俺がお嬢さんの下着を無断借用なんて、そんな人道にも外れる事をするはずないだろう? そもそも女物の下着は俺には必要ないしな」
「――」
「一番見られたくないものの幻覚だったわけだけど、それが下着なのか。ちょっと残念だ。……まあ今はまだ、と言う事で納得しておくとしよう」
「――ゃ、やだやだやだ離して離して離してぇ!!! おと、男が私に触れるなんて、そんな、な……ぁ」
「っと。気絶してしまった。行き成りはさすがにちょっと刺激が強すぎたか。……ちょっと反省」
知りません。
『講座-八回目-』
「アルと、」
「――もう飽きました」
「ぇ――って、えぇー!!! リョーンさん、いきなり何を言い出しちゃってるのっ!?」
「だってアルーシア。思い返しても見なさい。私たち、女二人こんな何もない所で何をやっているのか、思い返すと寒々しくなりませんか?」
「……、……うん、とってもなったよ」
「でしょう?」
「でも思い返してみたけど、『何でも講座』とかって銘打ってる割には何にも教えたりする内容とかってなかったよね、結局」
「それは仕方ないんです。だって質問も何も、疑問みたいな不思議な事ってないんですから。そもそも応える必要性がないんです」
「言われてみれば……うん、わたしもいざとなればリョーンさん――『燎原』の知識を“知っちゃ”えばいいだけだもんね」
「ええ。と、言うより何よりやはり飽きてしまったので、私は一眠りする事にします」
「一眠り? リョーンさん、寝ちゃうの?」
「はい。ちょっと力の方を貯めて、レムを驚かせてみようと思います」
「あ、それ楽しそう。そういうことだったらわたしも少しだけ――」
「アルーシアはちょっと無理、かな。これは私が燎原だからできる事で、アルーシアはちゃんと機会が来るまでお預けしててくださいな」
「……むー、リョーンさんばっかりずるいっ!」
「ふふー、役得はそう簡単には譲りませんよー?」
「もういいもんっ、わたしも不貞寝する事にする!」
「はい。お休みなさい、アルーシア。それと――聞こえてるんでしょう? “あなた”も、お休みなさい?」