ど-234. 少し戻る
コトハさんの番
「はぁぁぁ」
「どうした、コトハ。旅は道ずれ世は情けって言うだろ。何か困った事があるなら俺に話してみてはくれないか?」
「朝起きたらいきなり居たヒトに言われたくありません」
「ははっ、あの時のコトハの顔は見てて楽しかったぞ?」
「……いるならいるって、前もって言ってくれないと困ります」
「ああ、悪かった。今度からはそうしよう、約束する、コトハ」
「……出来れば“次”はない方がいいです」
「ふっ、本当に照れ屋さんだね、コトハ?」
「勝手にして下さい。……うぅ、折角いなくなったと思ってたのに。時間差なんて酷すぎる」
「それはそうとコトハ、今はどこに向かってるんだ?」
「目的地はないです。ただ、先の病気が西の方から流れてきたようなので取り敢えずは西の方に向かってますけど」
「ふむ、西か」
「レムはどこか行くところとかあるんですか? 私についてくるだけじゃなくて、ほら、何か目的とかは……」
「ああ、当然ある」
「それってなんですか?」
「世界中のお嬢さんに会いに、俺は行くっ!」
「……」
「ちなみに旦那様の発言は嘘偽り邪念その他後ろめたいと言う感情一切なしの前向きかつ慈愛精神にしか満ちていない本気の発言ですので、コトハ様」
「馬鹿ですか? 前々からずっと思ってたけど、レムって本物のバカなんですか?」
「あぁ、俺は馬鹿にもなるよ。コトハみたいな可愛い、綺麗なお嬢さんの為なら馬鹿にだって喜んでなって見せよう」
「……そうですか。やっぱり馬鹿なんですね、レムって。こんなヒトが自分と同じ薬師の一人だと思うとなんだか情けなくなってくるような気がします」
「頑張れ、コトハ!」
「レムに励まされても……、そう言えばレムって薬師としては別の名前を名乗ってたんですよね。なんて名前でしたっけ?」
「ん? スズタケ」
「そうそう、スズタケ……って、あれ? スズタケ、“すずたけ”、やっぱりどこかで聞き覚えがある様な気が」
「コトハ様の配合されている薬を拝見させて頂きましたが、あの品の並びや調合方をどちらかから伝授された、というのであればそうでしょうね」
「ちなみにコトハの師匠かご先祖様はキスケって言う奴な」
「な、……なんでレムが私のお師匠さまの事を知ってるんですか? ま、まさか調べて……? いいえ、でもそんな事は」
「今の俺は勘だけで全てを見通せる自信がある」
「う、嘘……?」
「いや、キスケの事は別にあてずっぽうだったわけじゃないけどな。と、言うよりもそんな事はどうでもいいんだ。俺はお嬢さんが目の前にいるのに別の男の話なんてしたくない」
「い、いやレム!? ……も、もしかしてレムってお師匠さまの知り合い、とか?」
「野郎は知らん。もっと楽しい話をしようよ、コトハ?」
「私にとっては重要な事なんですよ、いいから答えて下さいっ」
「……そう、あいつと初めて会ったのはこんな晴れた寒い日の事だった」
「あいつ? あいつってお師匠さまの……」
「いや、自称女神のストーカー」
「なんですか、その危ないヒトはっ!?」
「……コトハ。ごめん、そうだよな。コトハの前で別のお嬢さんの話をしようとすれば、機嫌が悪くなって当然だよな。俺が無神経だったよ」
「いえ、その事には全然怒ってなくて……それよりもお師匠さまの事をっ!」
「野郎は知らん」
「レム!」
「と、言いたいところだけど、お嬢さんを悲しませるのは俺の信条に反するからな」
「それじゃあレム――」
「ああ。一緒に水浴びでもして気持ちを一新させよう、コトハ」
「れれれ、レムのばかー!!! ……こんなヒトに聞こうとした事自体がそもそも間違いでした。ええそうでした!」
「ああ、そうだよ。俺はお嬢さんの、皆の幸せの為だったら喜んで馬鹿になるって、そう言ったよね、コトハ?」
「ええ、そう、そうでしたね。そしてレムってヒトはそう言うヒトなんですね! ……正直、失望しました。私、真剣に聞いてたのにっ!」
「……ごめんね、コトハ。――でもな、時には愚か者になるってのも悪くないと俺は思うんだ」
「旦那様……?」
キスケさんって誰ですか、ってこっちが聞きたいくらいです。
『講座-四回目』
「アルと、」
「リョーンの、」
「「何でも講座ー」」
どんどんぱふぱふ、きゃ〜
「……今、悲鳴が聞こえたよ?」
「気のせいです」
「リョーンさんがそう言うなら、そうなんだよね。……うん、そうだよね」
「と、言う訳で今日は使徒の特性について語ろうと思います」
「特性って言うと……うーんと、燎原が使う“力”について?」
「ちょっと違いますね。使徒は別に固有の“力”を持ってるわけじゃないですから。使徒が持っているのはあくまで『概念の製法』であり、“力”そのものの特性とは全くの別物です」
「……よく分からないけど」
「つまりですね、私の場合は“力”として火の粉を使ってますけど、別にあれは氷の粒や花弁のような形でも同じ現象を起こせますよ、という事です」
「リョーンさん、氷や花弁でモノは燃えないよ?」
「其処は使徒が使徒たる所以ですから。伊達に神様の使いじゃないんです」
「ふーん」
「あら、反応の薄い」
「いや、よく考えたらわたし、それほど興味ないし」
「そうですね。正直私も自分のこの力には興味ないですし」
「自分の力なのに?」
「はい。別に欲しくないですし。私の『最強』も……そもそもどうして私なんかが『最強』なんでしょうね?」
「『最強』って、使徒の中で一番強いって事だよね?」
「はい。そしてそれが私の特性です。例えば灼眼は『最速』、昏白は……可哀想なのであまり言いたくはないんですけど、」
「え? それってどういう――」
「昏白の特性は『最過』です」
「さいか、って聞いた事ないけどどういう意味なの、それ?」
「……一番重いって事です」
「――ああ、そう言う事なんだ。確かに可哀想かも」
「はい、そう言う事なんです」
「まあ他の使徒の特性はよく知らないんですけどね、私の『最強』の場合は全てを書き換える、もしくは現象の上書きが可能、という事でしょうか。“力”は単にそれに見合ったモノになてるだけです」
「ふーん」
「ちなみに使徒の性格って言うのはこの特性と、仕える神様の性格が影響し合って形成されてるんですよ? だからチートクライ様の使徒たちは皆陰気な子たちばかりですし、クゥワトロビエ様の使徒たちは割と粘着質な子が多いです」
「ああ、という事はリョーンさん性格は女神様に似てるんだ」
「――何か言いました、アルーシア?」
「ううん、何でもないよ」
「そうですか。まあ、とは言っても使徒には性格って呼べるほどの自我はほとんどないんですけどね」
「え、それっておかしくない?」
「いえ、おかしくないですよ。それに明確な自我があったのは私くらいのものだったですけどね。灼眼もちょっとはありましたけど、まだ私にべったりでしたから」
「でもレムの話だと使徒の皆にだって人格はあるって言ってたよ?」
「ああ、あれはただ宿主の性格を核に形成されているだけです。ちなみに今の私もちょっとはアルーシアの影響を受けてますよ?」
「……そうなんだ」
「はい、そうなんです。そして“あの子”も――」
……早くも飽きてきた、と言うよりも長くなりすぎ。