ど-228. 五人目・六人目・サラサ&アイシャ
もっとはじけたい
「で、実はちゃっかり聞き耳を立ててたアイシャ? 俺の聞きたい事、分かるよね?」
「ふ、ふんっ。兄さんもお節介よね。態々そんな事しなくても私一人で充分だったのに」
「十分? と言う事はマイマイの葉の雫を取ってきたとか?」
「そうよ。ほら、これよっ!」
「うん、偽物」
「ちょ、待ちなさいよ!?」
「何かな、アイシャ。それとそれが偽物ってのは間違いないからな」
「ど、どうしてあなたにこれが偽物だって事が分かるのよ?」
「それは俺が素敵だから……と、言いたい所だけどちょっと違う。マイマイの葉の雫ってのはな、馬鹿らしいほどの魔力を秘めてるから見る奴が見れば一目で判るんだ。アイシャの持ってるソレは確かに魔力は感じられるけど、マイマイの葉の雫ほどじゃない。だから偽物ってわけ」
「ぅ、……それじゃあ」
「うん。ソレはサラサには効かないよ。むしろどんな効果があるか分からない分、サラサに使うのは危険だな」
「……くぅぅぅ、あのインチキ商人、今度見つけたら絶対、コロしてやるんだからっ」
「真に僭越ながらアイシャ様に一言忠告しておきますに、マイマイの葉の雫はそのように個人間で取引が行われるよな代物では断じて御座いません。一滴で小さな国一つ買っておつりがくるほどのですから」
「えぇそうねそうみたいね騙された私がバカだったわ」
「大丈夫、そんなアイシャも可愛いよ?」
「……それ、慰めてるつもり?」
「いや。本心を言っただけ」
「……性質の悪い男ね。ホント、こんな男を連れてきて兄さんはどうするつもりだったのかしら?」
「ちなみに俺はサラサの病気を治せます」
「今の言葉が嘘だったらコロすわよ?」
「ふっ、俺はお嬢さんに対して嘘は吐かないんだ。軽く薬学を嗜んでてな、あの病に効く薬も知ってるから大丈夫」
「……じゃあすっごい高いとか?」
「そんな事はない。仮に高価だったとしても別にお金はいらないしな。俺がほしいのはただ一つっ――お嬢さんの笑顔だけさっ」
「もう一度言っておくけど、サラサを治せるってアレ、嘘だったりしたらコロすわよ?」
「信用がないなぁ。大丈夫だって。ついでに言うとサラサにはもうその薬を食べさせたからもう安心だよ」
「ッ――サラサ、大丈夫!? 気分が悪くなったり、どこか体の調子が変だったりしない!?」
「大丈夫ですよ、姉様。身体は何ともありませんし、レムさんから頂いたお団子はとても美味しかったですし」
「……お団子?」
「コレ。アイシャも一つ食べるか?」
「誰が、そんなよく分からないもの――」
「でもサラサも食べたぞ。なあ?」
「ぇ、あ、はい。あのね、姉様。お団子、とっても甘くて美味しかったですよ? 多分、姉様の大好きな味だと思います」
「ぅっ……まぁ、サラサがそう言うなら、一口だけ」
「はい、あーん」
「んっ!」
「はい、あーん」
「い・い・か・らっ! さっさとよこしなさいよっ!?」
「だから、あーん、だってば」
「だっ――誰がそんな恥ずかしい真似するかー!!」
「はい、サラサ、あーん」
「えっと」
「サラサ、あーん」
「れ、レムさん、それはちょっと……恥ずかしいですから」
「ほら、サラサ。口を開けて?」
「……うぅ?」
「あーん?」
「……、あー」
「ってあんたはヒトの妹に何やらせてるのよっ!?」
「何って、愛情の受渡し?」
「そそそうだったんですか?!?!」
「私のサラサを目の前で誑かすなっ!!」
「誑かすなんてとんでもない」
「誑かしてるんじゃないって言うのなら他に一体何だって言うのよ!?」
「真剣に愛を囁いているだけだ」
「なお悪――くはないのかもしれないけどやっぱり悪いわっ!!」
「……ふぅ、やれやれ、仕方ない。可愛い可愛いアイシャ、寂しいのは分かるけど心配しなくても大丈夫だよ。君の相手もちゃんと後でしてあげるから。それとももう待てないのかな?」
「――な、な、な……」
「うん、アイシャ。ごめんよ。でも俺の体は一つしかないからね。君はお姉さんなんだから、あと少し待っててくれないか?」
「何をほざいてるのよこの――っ!!!!」
「ふふっ、アイシャの愛情表現は過激だなぁ」
「愛情表現じゃないっ!! 本気でっ、殺意をっ、覚えてるの……よっ!!」
「ふっ、だが俺はまだこんなところで倒れるわけにはいかないだ。だからごめんよ、アイシャ。君の気持は、ちゃんと受けと――」
「「ぁ」」
「――さて、傍迷惑な旦那様は……一旦と言うのが誠に遺憾では御座いますが黙らせましたので、もう少々真面目な話をするとしましょうか。お二人とも?」
「「あ、はい……」」
「あ、あのよー、俺もいるんですけど。……二人って。そもそも俺が依頼者なのに」
最後のは二人のお兄さんの科白。
こんな一話完結じゃないモノだと、色々と堪るものがあります。
とある姉妹の騙り合い
「……ストレスが溜まります」
「……色々とムカつく」
「最も、一番は姉様が目の前にいる事ですけど」
「ああ、お前の顔が一番ムカつく」
「まあ、なんて奇遇でしょうね、姉様」
「嫌な奇遇でしかないがな」
「そうですね。そう思うのならサンドバックになってくれませんか?」
「――お前がサンドバックになれ」
「――ふふっ、随分と素敵な事を言う姉様です事」