ど-223. ちょっと振り返ってみる
後悔先に立たず
「シールファっ」
「レムさん?」
「おうっ。愛しのレムさんだ!」
「誰が愛しのですか、誰が」
「ん? 俺以外に誰かいるのか?」
「いませんっ! って、いえ今のは別にだからってレムさんの事が好きとかそう言う訳じゃなくてですね」
「あぁ、シルファ。君の想いは言葉にしなくても解かっているよ」
「……何か凄く誤解してそうにも聞こえますけど、まあいいです。それよりもレムさん、久しぶりですね?」
「あぁ、随分と長い間顔を見せる事ができなくて、本当にすまないと思っているよ」
「長い間って、十二日ほどですけど。……確かに今まで毎日一度は見てたって事で、ほんのちょっぴりだけ寂しいかな、なんて勘違いはしたかもしれないんですけどっ」
「確かに。旦那様とお会いしなかった日をわざわざ数えておられる程度には寂しがっておられたご様子。喜んでいいのか、悲しんでいいのか、私はどう反応するべきなのでしょうね?」
「って、レムさん私は別にレムさんが今日は来るかな、来ないかな? なんて思ってたりは断じて! 断じてしてませんでしたからね」
「ふふっ、全て分かってるよ、シルファ」
「誤解してます、絶対にレムさん誤解してますからっ!!」
「ごかい……そうか、日に五回も俺の事を」
「ちが、違いますっっ!!!!」
「ちなみにシルファ様、旦那様は相手をすればするほどつけ上がりますので、現状の最善策といたしましては無視されるのが一番かと存じ上げます」
「それはそうとシルファ。今日はプレゼントがあるんだ」
「……」
「ははっ、機嫌を損ねてしまったかな。シルファ、俺の可愛いシルファ、お願いだから機嫌を直しておくれ?」
「っ!! 我慢の限界ですっ。誰が“俺のシルファ”ですかっ、誰がっ!! 私は別に誰のでも……っ、レムさんのものなんかじゃありませんっ!!」
「それとシルファ様。大変申し上げにくいのですが、そのように大きな声を繰り返し出されますと、今以上に皆様方から注目を集めてしまいかねますよ?」
「〜〜」
「はい、シルファ。口を開けて?」
「……」
「膨れてる顔も可愛いけど、はい、あーん?」
「……、何ですかレムさん。レムさんはそんなに私に恥をかかせて嬉しいんですか楽しいんですかそんなに私の事が嫌いなんですか」
「哀しい事を言わないで。俺はシルファの事、好きだよ?」
「っっっ!!! もう――」
「旦那様、お戯れもその辺りにしておいてくださいます様。シルファ様を困らせたいわけではないでしょう?」
「ん? あぁそうだけど、って……悪い。また困らせてしまったみたいだな。それもこれも全て俺が素敵すぎるのがいけないんだな。あぁ、なんて罪な俺」
「……もー、良いです」
「ああ、ごめんなシルファ。君を困らせるつもりは微塵もなかったんだ」
「それは何となく分かりますけど。……と言うよりも悪気を微塵も感じられないってのがすっごく困ってるんですけどっ」
「はい、シルファ。それはそうと口を開けて?」
「……さっきからそう言ってますけど、何ですか?」
「だから、プレゼント。俺特製のお団子。甘くておいしいぞ〜?」
「何か変なモノ、入ってませんよね?」
「信用ないなぁ。大丈夫、隠し味として俺の愛情が入ってるだけだから」
「実にお腹を壊してしまいそうな隠し味ですね、旦那様?」
「……折角ですから食べてあげます。でもお腹、壊しませんよね?」
「大丈夫、それは保障するよ」
「それでは、頂きます」
「ならほら、口開けて。あーん?」
「自分で食べますから、渡してくれれば結構です」
「そんな事言わずに。ほら、あーん」
「――自分で食べますからっ、早く渡してくださいっ。じゃないと受け取りませんからねっ!!」
「むぅ。そこまでシルファが恥ずかしがるなら仕方がない。はい、どうぞ」
「……ありがとう御座います。それと、別に恥ずかしがってとか、いませんからね?」
「そう言う事にしておこう」
「旦那様が非常に珍しく偉そうに偉ぶっておられます。……レアです」
「んじゃ、用事も済んだ事だし俺は帰るとするわ」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
「悪いな、シルファ。俺にも色々としなくちゃいけない事があるんだ。出来るならずっとシルファの傍にいたいんだけど……」
「あーはいはい。そーですね」
「名残惜しいけど、俺はもう行くぜ!!」
「はいはい。またお越しくださいねー。今度はちゃんとお客様として」
「おう、シルファからのデートの誘い、確かに受け取った」
「デートじゃありませんっ!!」
「ははっ、じゃあなー」
「はい、レムさんも気をつけて……って、どうせレムさんの事ですからやることって他の女の人に会いに行くとか、そんな事でしょうけどね」
「シルファ様、正解」
シルファさん、再登場?
とある姉妹の騙り合い
「……ふふっ」
「気色の悪い笑みをやめろ、愚妹」
「思い出し笑いです、放っておいてください、姉様」
「成程。一人空しく過去の栄光にしがみついていただけか。実にお前らしい妄想行為だな」
「……良い気分だったのが台無しです。死にますか、姉様?」
「……やれやれ、これだから暴力的な愚妹には困ると言うモノだ」
「良く――その口が吠えますっ」