Deedα. コトハ
ちなみに冥了は“みょうりょう”と読みます。
「コトハ様の様子はいかがですか、旦那様?」
「ああ、大事なさそうだった。ちゃんと薬がよく聞いてるみたいだな」
「それはよう御座いました」
「ああ。それにしてもコトハも随分と危ない勘違いをしてたものだよなぁ」
「そうで御座いますね。確かに彼の死の【厄災】――いえ、使徒“冥了”による最悪最古の遺産“冥了の涙”は小人族特有のものなどではなく……」
「そう、“冥了の涙”本当の意味で『死の厄災』だからな。アレは態々対象を判別したりなんかしちゃいない」
「過去、私も死にかけましたからね」
「あぁ、あの時か。あの時は大変だった。俺が特効薬造るまで館中の俺の奴隷たちがパニックになって収拾がつかなかったからな」
「旦那様、彼女らは奴隷ではなく、あくまで“隷属の刻印”を刻まれし――」
「良いんだよ。俺の“愛”の奴隷で違いないからなっ」
「……それはある意味そうですか」
「しかし真面目な話、“冥了の涙”の種を早期に見つける事が出来て良かった」
「確かに。一旦アレの分散が始まりますと歯止めが効きませんからね。……しかし、このタイミングで“冥了の涙”が見つかるとは。旦那様はいったいどちらまでご存じで、どこまでが想定内であられるのですか?」
「どちらまでって、何の事だ?」
「“偶然”サルアーサへの護衛依頼と、“偶然”到着したサルアーサで“冥了の涙”の種が見つかった事、“偶然”旦那様が特効薬の材料を持っていらした事、で御座います」
「全部が偶然、って言ったら信じるか?」
「それが旦那様のお言葉であるのでしたら。……正直なところ、今の覚醒を果たした旦那様であるのならばその程度の事は起きうるのではないか、とも考えておりますので」
「ん〜、一応コトハの件は全くの偶然な。でも“冥了の涙”についてはある程度の想定はしてた」
「想定しておられた、のですか?」
「あぁ、うん。みーくんに“冥了の涙”が憑いてた。だからみーくんが暴れ回ってたこの近辺じゃ、移された奴らがいてもおかしくないって話」
「みーくんに。では、トマトマイの街の方は大丈夫なのでしょうか?」
「みーくんの“冥了の涙”は殺しておいたし、大丈夫だとは思うけど、そう言われると心配だな。俺の愛しのお嬢さんたちが万が一にでも“冥了の涙”如きに殺されたとあっちゃ、ルナにもシャトゥにも、誰にも顔向けなんてできないしな」
「では旦那様、一旦トマトマイの方へと帰還いたしますか?」
「あぁ、でもその前に、やる事をやってから、だな」
「やる事、ですか?」
「ああ。まだ今回の“冥了の涙”の本体が見つかってない。それを見つけて殺っとかない限りは安心できないからな。この近くにいる事は間違いないはずなんだけどな」
◇◇◇
「うむ?」
「どうかしたのかな、シャトゥちゃん?」
「うむ、奴隷一号様。ちょっと来てくださいまし。うにょうにょと蠢くモノを見つけました」
「……うにょうにょ蠢くって、私見たくないんだけど。そっち行かなくてもいいですか?」
「うむ、許します。下僕一号様はこっち来ちゃダメなの」
「ほっ、よかった。……でもこの胸に広がる空しさは何なのかな?」
「きっと私が冷たくされて寂しいのだと思います」
「お願いだから独り事に応えないで、シャトゥちゃん」
「うむ?」
「いえ、うん。シャトゥちゃんが耳が凄くいいのを忘れてた私が悪いんですよね、きっと」
「うむ。……でもこれは何なのでしょうか。初めて見ます」
「シャトゥちゃんが初めて見るものって、割と多いよね?」
「……下僕一号様、それはもしやイジメですか? 遠まわしに『何も知らないお子ちゃまが粋がると痛い目見るですよ、ぷぷー』とか思っているのですか?」
「ち、違いますよ。と、言うよりもシャトゥちゃんの中の私はどうしてそんな変な口調なんですか」
「何となく?」
「あ、そうですか、何となく、ですか」
「うむ!」
「……もう良いです。シャトゥちゃんの何となくに振り回されるのも最近慣れてきましたし」
「うむ、それはきっと良い事です、奴隷一号様。それで、コレはどうしましょうか?」
「どう、と言われても。どこかへ捨てちゃえばいいんじゃないでしょうか?」
「うむ、私もそう思うのですが何となく? このうにょうにょにはずっと昔に見覚えがある様なない様な???」
「ずっと昔って、シャトゥちゃん何歳ですか。シャトゥちゃんはまだ二歳ですよね?」
「二歳が悪いのですかいけないのですか!」
「ううん、悪いなんて一言も言ってないですよ?」
「……下僕一号様、お願いしますからその笑い方を止めてくれると嬉しいのです。何となく嫌なのです、そして私はお説教はもうこりごりなのです」
「そんな、悪い事してないシャトゥちゃんには何もお説教なんてしませんよ」
「はい、私はこれからもよい子でいます!」
「ふふっ、おかしなシャトゥちゃん」
「……最近、母様やレムとは違う意味で下僕一号様が怖くなってきました。このままでは私の権威が脅かされる危険もありますが、がくがくぶるぶる」
「シャトゥちゃん?」
「何でもないのです下僕一号様」
「?」
「どうするべきでしょう……、うむ? そう言えばこのうにょうにょを見ていると冥了の涙と言う言葉を思い出すのは何故でしょう? 私、泣いてなんていませんからっ!」
「シャトゥちゃん、いつまでもその……うにょうにょ? を捕まえてないで捨てちゃって、早く次の街へ行きませんか?」
「うむ? それもそうですね。私の助けを求める信者さんたちがまだまだこの世界にはたくさんいるはずなのです。いざ、皆さまの救済を!」
「うん、そうだね。だからそのうにょうにょ、早く捨てちゃってくださいよ。気味が悪くて近づきたくないです」
「うむ? ……うむ。では――」
「シャトゥちゃん? 急に構えてどうしたの?」
「何となくですけど。……今こそ必堕の――『こずみっく・あろー』、……シュート!」
ぷち
◇◇◇
「あー」
「旦那様、如何なされましたか?」
「いや、今何となくだけど。……よし、トマトマイに戻るとしよう」
「ですが“冥了の涙”の本体探索の方は如何されるおつもりで?」
「取り敢えず、任せる。何かふと、急がなくてもいいかなって気がしてきた」
「旦那様が、そう仰られるのであれば」
「ああ。と言う訳でトマトマイの方へ帰るか」
「はい、了承いたしました、旦那様」
シャトゥちゃん、再臨
『こずみっく・あろー』
シャトゥ、108の必堕技の一つ。必ずオチる技、と書いて必堕技。
手の平から作り出した光の弓状な何かを使って、光の矢みたいな何かを打ち出す何となく弓矢みたいな技。“みたい”であって、決して弓矢じゃない。
光の矢に似た何かを撃ち出す時は「シュート」の掛け声が必要。でも光の矢っぽいので速度は光速だったりもする。
撃ち抜かれても怪我一つとしないのはお約束、でもある条件がそろうと……?
胸を撃ち抜かれると何となく胸の奥がぽかぽかと暖かくなるらしい。
……な、長いなぁ。