ど-218. 四人目・それじゃあ結婚しようか
旦那様は暴走中。
「到着しました」
「……転移、魔法なんて。わたし、初めて体験……というより見たのも初めてです」
「コトハの初体験、ゲットだぜ!」
「そっ、そういう誰かに勘違いされそうな事を大声で言うのは止めて下さいっ!!」
「勘違い? 何の事だ?」
「……」
「ですからそのように私を見られましても。このような時……加えまして最近の旦那様は常に本気ですし、面白くもない冗談を云うような事は決してございません。心底、一切の衒いも邪心さえもなく仰られている言葉ですので、素直に聞き流すのが恐らくは一番の上策かと」
「う、うぅぅ……。でも、これなら確かに銅十五枚でも十分だったのかも。一瞬で目的地まで着いちゃったし」
「しまったっ!? 折角のコトハとの楽しい旅の一時が台無しだ。俺はやり直しを所望する!! そして今度は十日ほどかけてじっくりと二人の親睦を深めていくんだ」
「ちなみにトマトマイからサルアーサまでは徒歩三日ほどの道のりなのですが、それをどのようにして十日も掛けるおつもりなのでしょうか、旦那様は」
「そりゃ当然、最近街道に盗賊やら魔物やらが出没して危険だって言うから、安全な道を迂回して迂回して、徹底的に迂回していく必要があるからだ」
「あのー、今更ですけど。それじゃあわたしが護衛を頼んでいる意味がないんですけど?」
「大丈夫、君の事は俺が絶対に守るよ」
「な、何変な事を急に言ってるんですかっ!?」
「俺が守る、などと。…………私はそのような言葉、一度たりとも掛けて頂いた事は御座いませんのに」
「と、言う訳でやり直しだ、やり直し。トマトマイに戻ろう」
「ちょ、折角サルアーサに着いたんですから、それを戻るだなんて、わたし困ります!」
「……むぅ、それは困るな。女の子を困らせるのは俺の主義に反する、かといってこれで任務終了、コトハとはお別れ、と言うのも寂しいものがある」
「さ、寂しいなんて言われても。これ、護衛料の銅貨十五枚です、どうぞ」
「あとコトハの笑顔」
「え、笑顔ですね。……にこ?」
「駄目、全然笑ってない、却下。俺が見たいコトハの笑顔はそんな無理に作っ笑顔じゃなくて、心から嬉しいって思った時に自然と零れ落ちるような、そんな素敵が笑顔が見たいんだ」
「そ、そんなに急に笑え、だなんて言われてもすぐに笑えるものじゃないですし……。えっと、どうすればいいのでしょう」
「――そうか、閃いた!!」
「……何か嫌な予感がするんですけど」
「同意いたします。そしてその予感は先ず違いないかと、コトハ様」
「コトハは俺に報酬をまだ払っていない、つまり報酬を支払う義務があるわけだ」
「そう、ですね」
「よって、俺はコトハの笑顔をもらうまでずっと傍に付いている必要がある」
「なんでそうなるんですか……、って、言いたい事は分かりますけど、それはいくらなんでも横暴じゃ」
「……コトハ、コトハは俺と一緒にいるのは、嫌?」
「嫌って、そんな事はありませんけど。と言うよりも本当についさっき初めて会った相手に一緒にいるのは嫌とかそんな感情、抱くはずないじゃないですか」
「世の中、何事も例外が存在するのを覚えておいた方がよろしいですよ、コトハ様?」
「そういう訳だから、コトハ」
「は、はい何ですか?」
「けっこ――」
「……、あの?」
「お気になさらぬよう、コトハ様。そして先ほど旦那様が言いかけたセリフは綺麗さっぱりお忘れ頂くよう、心よりお願い申し上げます」
「気絶している、そのヒトは良いんでしょうか?」
暴走しててもレム君をし止められるようになってきたメイドさん。……進化だ!
???の技名紹介(気まぐれシリーズ)
≪Daybreak――黎明に殉教せよ≫
全てを闇の底に沈める危ない技。木陰で休んでいる時に寝惚けて使っちゃうとそのままずぶずぶと地面に埋まって逝ってしまうので、気をつけましょう。
とある姉妹の騙り合い
「指輪、欲しいなぁ」
「ならこれをやろう、愚妹」
「……誰も呪いの指輪を欲しいなんて言ってません」
「なんだ、そうなのか」
「私がほしいのは結婚指輪です」
「身の程を知れ♪」
「――手が滑りました」
「ふん? そんな程度で私が殺れるとでも?」
「……足も滑りました」
「――そっちがその気なら私にも考えがある」
「そして姉様は存在自体を滑り落として差し上げます」