ど-216. 四人目・薬師のコトハさん
さあ、やっと四人目だ
「わたし、街々を渡って薬を売り歩いているのですけど、」
「へぇ、医者か、それも渡りの。珍しい」
「いえ、そんな大層なものではないんですけど。……それでですね、この街から出ようとしたのですけど、どうにもこの街には、その……」
「あぁ、そう言えばそこそこ大きな街なのにギルドがないよな、ここって。そのせいでみーくん探索の時には隣町のギルドまで出向いたしな」
「みーくん?」
「いや、前の仕事の話だから気にせずに。それで、続きは?」
「はい、そうなんです。かと言って酒場などで護衛を募集するのはちょっと、抵抗がありまして」
「抵抗? 街から街へ旅してるような果敢なお嬢さんがそりゃまた、珍しい」
「……実はわたし、お酒の匂いを嗅いだだけで酔っちゃいまして」
「よしっ、――今すぐ酒持ってこいっ」
「こちらに」
「……」
「いや、今のはちょっとした冗談だから、お嬢さん、そんなに警戒しなくてもいいよ?」
「でも……そっちのヒトの対応だって早かったし、」
「旦那様のご命令に即座に対応するのは当然の事に御座います」
「旦那様? 二人はご夫婦なんですか?」
「――ご想像にお任せ致します」
「と、こいつも言ってるからそっちの想像に任せる事にする。ちなみにこいつは一号さんだ」
「い、一号さん……?」
「それ以上の詮索はなしって事で。何と言っても、いい男っていうのは隠し事の一つや二つはざらにあるものだからな」
「は、はぁ」
「それでお嬢さん? そろそろ大切な要件の方を聞いてもいいかな?」
「あ、はい。報酬の話ですか、それなら」
「いや、違う」
「違う? なら何の――」
「お嬢さんの名前さ。いつまでもお嬢さん、なんて呼んでいたりしたら、君の名前が可哀そうだろう?」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだ!!」
「っ!!」
「旦那様、彼女が驚いていらっしゃいます。急な大声は出されぬよう、お気を付けを」
「っと、あぁ、悪かった。つい主張が勢いを増してしまって。それで、お嬢さん、お名前は?」
「……ぁ、と。はい、コトハ・シキイと言います」
「コトハ……コトハさんか」
「……何か?」
「いや、良い名前だと思ってね」
「良い名前で御座いますね?」
「……選択、間違ったかも」
……続いてる?
とある姉妹の騙り合い
「そう言えば以前に一度だけ酒で勝負した事があったな」
「はい、姉様。どちらが先に酔いつぶれて寝首をかられるか、と言う勝負でしたよね?」
「そもそも普通の酒では酔わない事を忘れていた」
「五日経っても勝負付きませんでしたからね。あれは本当に無駄な時間でした」
「そうだな。私もそう思う。だから最初から力尽くでお前を消しに行けば良かったんだ――今のように」
「ええ、私もそう思います、姉様。せめてお酒を飲むのに気を取られている姉様の隙をつけば良かったと、つくづく後悔しています」